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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

G20サミットに課題を残す財務相・中央銀行総裁会合

2019/06/10

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貿易問題には深く踏み込めず

6月8・9日に福岡で開かれたG20(主要20カ国・地域)財務相・中央銀行総裁会合では、「日本の強いリーダーシップのもとで大きな成果を挙げる」との所期の目的は達成できず、深刻な問題への対応を月末のG20サミット(首脳会談)に先送りする形となった感が強い。

G20が現在直面する最大の課題は、変調を示している世界経済への対応である。さらに、その世界経済の安定を最も大きく脅かし、また、多国間の自由貿易制度を揺るがしているのが米国の保護主義、米中貿易戦争だ。両国間の対立緩和を図ること、そして貿易紛争は2国間ではなく多国間の枠組みの中で解決を目指す、という多角的自由貿易の原則に引き戻すことこそが、自由貿易の重要性を強く掲げる議長国の日本に、本来は、最も強く求められていたことだ。

しかし、実際には、多国間ではなく2国間交渉を志向するトランプ政権のもと、米中貿易戦争は2国間での問題となっているのが現状だ。米国政府は、これはG20の議題ではない、と主張しているのではないか。また、ここでトランプ政権を強く刺激すれば、今後の日米貿易協議やその他日米関係に悪影響が及ぶことを懸念する日本は、この問題を踏み込んで取り上げることができなかったという面もあったのではないか。

参加国は、米中貿易摩擦が世界経済の下振れリスクであるとの認識をおおむね共有した。他方、日本は「自由貿易の重要性」という文言を共同声明に盛り込みたいと考えていたとされるが、それは実現できなかった。

同日、茨城県つくば市で開かれていたG20貿易・デジタル経済相会合でも、採択した閣僚声明は、自由で公正な貿易の重要性を確認する一方で、「保護主義と闘う」との文言は声明に盛り込まれず、G20として反保護主義の姿勢を明確には打ち出せなかった。これは、G20財務相・中央銀行総裁会合についても同様だ。米国政府の強い反対によってこの文言が2018年12月のG20首脳宣言で削除されたが、今回も復活することはなかった。

他方、同会合では、世界貿易機構(WTO)の改革の必要性が強調された。これは、同機構に強い不満を持つ米国への配慮、という側面が強いのではないか。

経常収支の不均衡問題を取り上げる

G20財務相・中央銀行総裁会合の共同声明では、世界経済は「足元で安定化の兆しを示している」としながらも、「成長は低位であり、リスクは依然として下方向に傾いている」と指摘した。また、貿易・地政学的緊張の高まりなどのリスクに引き続き対処し、「さらなる行動を起こす用意がある」としている。これは、世界経済の安定に向けてG20の協調をアピールすることで、金融市場や企業、家計の景況感を支える狙いがあるのだろう。また、日本にとっては、今後景気情勢が悪化する際に、消費税対策を上積みすることを正当化する狙いもあるのかもしれない。ただし麻生副総理は記者会見で、各国によって状況は異なり、日本としては直ちにやらねばならぬという情勢にあるとは考えていない、と発言している。

G20財務相・中央銀行総裁会合の中で、議長国である日本のオリジナリティが最も表れていると考えられ、また評価したいのが、経常収支の不均衡の議論を取り上げたことだ。声明文は、「不均衡は依然として高水準かつ持続的であり」、「我々は、対外収支を評価するにあたっては、サービス貿易・所得収支も含む経常収支すべての構成要素に着目する必要があることに留意する」とした。

ここには、世界の経常収支の不均衡問題というトランプ政権が強い関心を持つテーマを積極的に取り上げることで、米国への配慮を示すことが意図されているのではないか。他方で、それを日本の利益に繋げていく、という隠された狙いもあるように思われる。

日本は巨額な経常黒字を抱えているが、他方で、貿易収支はほぼ均衡している状態だ。経常黒字の多くは、海外への投資から得られる投資収益収入が生み出している。そこには、米国への直接投資、米国財務省証券の購入なども含まれる。つまり、米国が問題視している日本の経常黒字は、日本が米国経済に貢献している結果であるという側面があることを、米国側に理解してもらい、日米貿易協議での対日批判をかわす狙いがあるのではないか。

さらに、2国間の貿易・経常不均衡は、双方の貯蓄投資バランスで決まる面があるということを、トランプ大統領に認知させる狙いもある。

トランプ大統領は、米国の貿易赤字は、貿易相手国の不公正な貿易慣行と不当な通貨安誘導策によってもたらされていると思い込んでいる。しかし、実際には、2国間での貿易不均衡は双方の貯蓄投資バランス、いわば需要供給バランスで生じている側面も大きい。

つまり、米国の貿易赤字の拡大は、大型減税やインフラ投資の拡大など米国政府による財政拡張策が超過需要を生み出し、需要が供給を上回り、輸入が増加するから生じている面があること、つまり米国の政策運営にも大きな原因があることを、日本政府は米国側に認識させることを考えているのではないか。また、それを通じて、今後の日米貿易協議で、米国政府からの強い要求をかわす狙いもあるのではないか。

日米間での為替問題は議論されず

既に見たように、トランプ政権は、米国の貿易赤字は相手国の不公正な貿易慣行と不当な通貨切り下げによって生じていると思い込んでいるが、実際には、両国の経済構造、経済政策が原因となっている面も強い。この点をトランプ政権にも理解させることで、米国が他国を一方的に叩くといった米中貿易協議、あるいは日米・日欧貿易協議の枠組みを変更させ、多国間での議論へつなげていきたいという日本政府の狙いがあるのだろう。

ちなみに、昨年の会合で合意した貿易・投資と、競争力のために為替レートを目的としないとの約束が、今会合では再確認された。また、別途開かれた日米財務相会談では、米国が要求している日米貿易合意に為替条項を盛り込むことの議論はなされなかった。

それ以外に、G20財務相・中央銀行総裁会合では、経済協力開発機構(OECD)で議論されてきた、プラットフォーマーが節税に利用する税制上の抜け穴をふさぐための新たな国際法人課税の基本方針が合意された。また、2020年末までの最終合意を目指すことも確認された。また、新興国でのインフラ投資に関する新原則を承認した。

月末に大阪で開かれるG20サミットでは、経常収支の不均衡問題が再度取り上げられるだろう。それ以外に、新興国に対する「質の高いインフラ投資」を促すための国際ルール作り、国境を越えるデータ取引の新たな国際ルール作り、などが重要な経済のテーマとなるだろう。

執筆者情報

木内 登英

エグゼクティブ・エコノミスト

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