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浮上する中国での地方銀行の破綻懸念

2019/06/11

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中国で地方銀行が公的管理に

中国では、地方銀行の経営不安が広がっており、銀行間市場で資金逼迫傾向を引き起こす事態となっている。そのきっかけとなったのは、5月下旬に中国銀行保険監督管理委員会(CBIRC)が、「深刻な信用リスク」を理由に、内モンゴル自治区の包商銀行を公的管理に置いたことだ。これは、中国では18年ぶりの措置である。

特に注目されているのは、包商銀行は財務諸表の公表が遅れていたことだ。2017年半ばを最後に、その後は財務諸表を公表していない。財務上の深刻な問題を抱えていたため、情報開示ができなかったものと広く考えられている。そこで、財務諸表の公表が遅い他の地方銀行も、同様の深刻な問題を抱えている、あるいは、その結果、公的管理の対象となるのではないか、との観測が浮上しているのである。2018年の財務諸表をまだ公表していない銀行は、包商銀行以外に18行あるという。

中国人民銀行(中央銀行)は6月2日に、包商銀行を公的管理としたのは最大株主の資金流用が原因だと説明し、あくまでも特殊なケースだと説明した。肖建華氏が率いる投資コングロマリットの明天集団が包商銀行の株式89%程度を保有し、その後に同銀行の資金を大量に流用したことが重大な信用リスクを引き起こし、当局による介入が必要になったという。また、他の銀行を管理下に置く計画は現時点ではないと強調し、投資家の懸念払拭に努めた。

しかし、包商銀行の公的管理は、今後経営状況の悪い地方銀行の淘汰を加速させる当局の意思を示すもの、との見方も根強い。

格付けの信頼性の問題

中国の地方銀行は、対象とする地域、産業、顧客などが偏っており、リスクが分散されていないことが問題と指摘されている。他方、地方銀行は、地方政府との結びつきが強いため、経営の不透明な地元の資金調達会社を支援するような圧力も受けている。

昨年末には、不良債権の分類規則が厳格化されたため、地銀は正常債権とされる「関注(special mention)」に分類分けしていた債権の一部を、不良債権の分類項目に動かすケースが今後増える見通しだ。その結果、地方銀行の不良債権はさらに増加し、財務の脆弱性がより注目されるようになる可能性がある。

今回のケースは、地方銀行の情報開示とともに、格付けの問題も浮き彫りにしている。包商銀行の格付けは、2015年から「AAプラス」に据え置かれていたのである。中国の格付け業界は6社の寡占状態にあり、必ずしも格付け判断について詳細な理由を公表していない。また中国の格付け会社は一般的に、顧客の格下げに消極的だ。これは顧客との契約を失う、また、悪材料を提供して市場を混乱させたと当局から批判されることを恐れるためだ。さらに格付け会社は銀行の格付けを引き下げた場合にも、守秘義務を盾に理由を公にしない場合がある。

十分な情報開示や信頼できる格付けなど、客観的な投資判断の材料を欠いているという中国での制度上の不備が、包商銀行の公的管理を受けて、今回、金融市場で疑心暗鬼が広がり、小規模銀行の問題が国全体の金融市場に悪影響を与える事態にまで発展した背景にあると言えるだろう。

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