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利回り低下で正念場を迎えるイールドカーブコントロール

2019/06/19

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日本銀行は米国の利下げに追随しない

6月19、20日に開かれる日本銀行の金融政策決定会合では、政策変更を見込む向きはほぼない。前回会合で、長短政策金利のフォワードガイダンス(政策方針)の明確化などの措置を実施したことを踏まえると、政策変更に限らず、新たな施策が打ち出される可能性は低いだろう。

その中で、金融市場は6月18、19日に開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)の決定や、その後のパウエル議長の発言を受けた日本銀行の反応に注目しているのではないか。今回のFOMCでは利下げ(政策金利引下げ)は実施されないが、7月の次回FOMCでは利下げが実施されるとの見方は少なくない。パウエル議長が利下げの可能性を改めて示唆すれば、市場の利下げ期待は一段と高まるだろう。

しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げが、日本銀行の利下げに直結する訳ではない。その決定は、為替動向に大きく左右されるだろう。FRBが景気悪化に先手を打って利下げを決める場合、あるいはそうした見通しが強まる際には、それは金融市場で好感されリスクオンモードが醸成されやすい。そのもとでは円高にはなりにくいことから、日本銀行は現状維持を続けるのではないか。

10年国債利回りは許容変動レンジの下限に近付く

金融政策決定会合での議題として、もう一点注目されるのが、日本銀行が目標とする国債10年利回りの下振れへの対応ではないか。

欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が、追加緩和の可能性に言及したことで、世界的に国債利回りは低下し、19日に日本では10年国債利回りが−0.15%と2016年8月以来の水準に達した。2016年9月にイールドカーブコントロールが導入され10年国債利回りの目標が「ゼロ%程度」と設定されて以降、最低の水準である。

日本銀行は2018年7月に、10年国債利回りの許容変動レンジを、それ以前の「ゼロ%程度±0.1%」から、「ゼロ%程度±0.2%」へと拡大した。そのレンジの下限である−0.2%に10年国債利回りが接近してきたことは、日本銀行にとっては大きな懸念材料だ。

世界経済の減速が進み、米国でより大幅な利下げが予想される状況となれば、米国の10年国債利回りは2%の水準を大きく割り込むだろう。そうなれば、日本銀行は10年国債利回りの許容変動レンジの下限を守れなくなる可能性がある。現時点ではまだ下限までにはのりしろはあるものの、そうした事態への対応は今回の会合でも議論されるのではないか。

イールドカーブコントロールを事実上放棄も

仮に、10年国債利回りが許容変動レンジの下限に接近する場合には、日本銀行は許容変動レンジを撤廃するのではないか。その場合、イールドカーブコントロールは続いていると日本銀行は説明するとしても、イールドカーブコントロールは事実上なくなることになる。

10年国債利回りの許容変動レンジの上限を守るのと比べて、下限を守るのは格段に難しいことは理解されるべきだ。10年国債利回りの上昇を抑えて上限を守る際には、指値オペと国債買入れ増額が有効な手段となる。これに対して、10年国債利回りの低下を抑えて下限を守る有効な手段はない。国債買入れ減額が、どの程度利回りの低下に歯止めを掛けるかは不確実だ。

また、海外の国債利回りが低下するなかで、国債買入れ減額を通じて、仮に日本の10年国債利回りの低下に一定程度歯止めを掛けることができる場合には、それは内外金利差の縮小から円高を招く。また、国債買入れ減額自体が、金融緩和の縮小策である。海外景気が悪化する局面で、日本銀行は金融緩和の縮小策を実施し、それが円高・株安などを招いて国内景気を一層悪化させることになってしまう。これは、本来、金融政策が期待される機能、つまり、「景気・物価に対するマイナスのショックが生じた場合には、それを相殺する緩和措置を講じる」ことと全く逆の政策を日本銀行が実施することとなるのだ。

イールドカーブコントロールは、こうした本源的な大きな矛盾を抱えている。この点を踏まえると、世界経済が悪化して日本の10年国債利回りが許容変動レンジの下限に達する場合には、イールドカーブコントロールは堅持すると表面的には説明しながらも、比較的すんなりと日本銀行は変動レンジを撤廃して、イールドカーブコントロールを事実上放棄してしまうのではないか。その結果、長期金利は一段と低下するだろうが、それは一種の追加緩和措置となる。

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