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リブラの利用拡大で最も困るのは中央銀行

2019/07/05

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リブラは現金を代替し中央銀行の利益を減らす

新通貨・リブラを運営するリブラ協会の創設メンバー28組織(フェイスブックの子会社カリブラを含む)には、マスターカード、ビザ、ペイパルなど既存の決済システムを担う企業が含まれている。しかし、民間銀行は含まれていない。これは、民間銀行がリブラを自らの決済業務を侵食していく、いわば将来の敵と見なしているからではないか。しかし、金利が付かないリブラによって代替されやすいのは、民間銀行が提供する決済システムを担う銀行預金よりも、圧倒的に現金なのだろう。

BITCOIN IRAによると、2017年時点で世界の現金発行額(流通額)は31兆ドルだという。仮にリブラが本格的に利用されるようになれば、この世界の現金発行額はかなり減少する可能性がある。フェイスブックは、ワッツアップ、メッセンジャー上でリブラを利用できるようにしようとしている。ちなみに、これらフェイスブックアプリの利用者数は現在27億人と、2018年の世界の人口73億人の37%程度、実に3人に1人程度にも達している。

仮に将来、リブラが世界の現金発行額の37%程度を代替するとした場合、現金は11.5兆ドル、1,240兆円程度減少してしまう計算になる。しかし、人々は、この現金の減少で困ることはない。リブラがあれば決済に問題ないからである。

実は、現金の減少で最も困るのは、中央銀行だ。現金という利払い負担が発生しない債務と引き換えに、民間銀行から国債などを買い取り、利子所得を稼いでいるからである(シニョレッジ:通貨発行益)。現金発行が減っていけば、利子所得も減ってしまい、中央銀行の業務に支障が生じる可能性がある。

リブラ協会は中央銀行以上の存在か

ところで、リブラを発行・消却できるのは、リブラ協会だけだ。この点から、リブラ協会は中央銀行に近い。ただし、法定通貨の場合には、中央銀行だけでなく、民間銀行も銀行預金という通貨(マネーストック)を自ら増減させることができる。それに対して、リブラ協会は通貨発行権を独占するのである。こうした点を踏まえると、リブラ協会は、既存の中央銀行よりも大きな権限を持つという側面もあるのではないか。

さらに重要なのは、現金がリブラに代替されることで、中央銀行の利子所得は減ってしまう可能性はあるが、それと引き換えに利益をあげることになるのが、このリブラ協会だ。リブラ協会は、リブラの発行と引き換えに受け取る法定通貨を、主要通貨で構成される銀行預金や短期国債などで保有する(リブラ・リザーブ)。そこには運用収益が発生するのである。

リブラの利用が広がると巨額の収益が得られる

前出の計算で、仮にリブラが現金を11.5兆ドル代替する場合には、同額のリザーブをリブラ協会が保有することになる。リザーブの構成はなお不明だが、米国短期国債で保有すると仮定した場合には、現在では年率2%程度の利子所得が発生することになる。これは2,300億ドル、25兆円程度にも及ぶ。

この収入は、システムの運営費を賄うことに使われる一方、フェイスブックの子会社カリブラを含むリブラ協会のメンバー、つまり出資者に分配される。リブラ協会のメンバーは現在の28組織から、100組織以上にまで増やすことが計画されている。

このように、リブラはその利用が増えれば増える程、出資した企業が儲かる仕組みである。リブラの将来を楽観視する企業は新たに出資を行い、リブラ協会のメンバーとなっていくだろう。

中央銀行は自らが得た利子所得を国庫に納付し、いわば社会に還元するのに対して、リブラ協会はそうはしない。この点は、同じ社会インフラを担う存在といっても、既存の中央銀行とリブラ協会との間の大きな違いである。

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