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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

米国保護貿易主義の源流を探る

2019/07/08

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米国は本当に市場主義の盟主か

一般に国の産業政策については、「一定の条件の下では幼稚産業保護政策が望ましい」とする考え方と、それと対極的に、「民間企業の自由な競争を通じて経済効率が最も高くなる」とする市場競争重視の考え方とがある。後者は、新古典派経済学に基づいており、それを経済政策の基本理念としているのが米国である。

しかし、そうした市場主義の盟主である米国でも、多くの経済問題を解決するため、政府に期待される役割は小さくない。市場メカニズムに任せていては解決できない、いわば「市場の失敗」が生じる分野、例えば、物価安定策、雇用政策、福祉政策などでは、公的部門による経済政策が正当化されている。

さらに、政府の産業政策については、米国企業の国際競争力の低下が強い危機感を持って議論された1980年代に、ある種の転機を迎えたように思われる。そうした流れに影響を与えたのが、「ヤングレポート」だ。

1985年に発表されたヤングレポートは、産業競争力に関する米大統領経済諮問委員会(CEA)が当時のレーガン大統領に提出した報告書だ。正式名は「グローバル競争:新たな現実(Global Competition-New Reality)」であるが、当時の委員長がヒューレット・パッカード社社長のJ.ヤングであったことから、そのように呼ばれた。

米国は、1970年代後半からスタグフレーション(不況とインフレが同時に生じる経済環境)に見舞われていた。1980年代に入ると米国の不況はさらに深刻化し、また、財政赤字と貿易赤字が共に拡大する、いわゆる「双子の赤字」問題も深刻化していった。

こうした環境のもと、米国産業の国際競争力低下が、経済の低迷や貿易赤字拡大の背景にあるとの認識が広がっていったのである。そこで、レーガン大統領は、1983年にヤング氏を委員長とする「産業競争力委員会(President’s Commission on Industrial Competitiveness)」を設立した。ここで作られた報告書がヤングレポートである。

ヤングレポートは米国通商政策の転換を提言

ヤングレポートでは、生産性、生活水準、貿易収支等から米国の産業競争力が低下しており、その原因は為替等ではなく製造業の国際競争力低下にある、との考えが示された。

そのうえでレポートは、米国製造業の国際競争力を改善させる具体的な4つの方策を提言した。第1が、新技術の創造、実用化、保護、第2が、資本コストの低減、第3が、人的資源開発、第4が、通商政策の重視だ。

第1の、新技術の創造、実用化、保護については、イノベーションとそれによる技術の優位こそが競争力の源泉、としている。また、そのためには特許権など知的所有権の保護が必要であると論じられている。確かに、知的所有権が保護されていなければ、研究・開発に資金を投じて新技術を生み出しても、その果実が他社に奪われ、資金回収ができなくなる恐れがある。この観点から、知的所有権保護は、イノベーションを生み出す要件の一つであると位置づけられるだろう。

現在のトランプ政権が、米中貿易協議の中で、知的所有権保護強化を中国に対する要求の柱の一つに据えていることの源流が、ここに見い出される。

さらに注目したいのが、第4の通商政策の重視だ。ここでは、貿易を国家の優先事業とすべきと論じられている。まず、問題点として指摘されているのが、通商政策の決定過程が統一されていないこと、海外の不当な貿易慣行に対処する貿易政策を欠いていること、競争法(独占禁止法)を国際競争に適用することが遅れていること、輸出企業への助成不足、海外の産業政策、補助金政策、対外投資規制に国際貿易制度(GATT)が、対応できていないこと、等だ。

これを踏まえて、通商政策と投資政策の改善、海外の不当な貿易慣行に対応するための国内貿易法の見直し、独占禁止法緩和、輸出制限の緩和、輸出援助制度の拡大、貿易情報の普及、輸出入銀行を通じた輸出融資、などが提言された。

介入主義に転じた米通商政策を担ったUSTR

ヤングレポートを一つのきっかけとして、米国政府は、国際競争力の向上を目指して、貿易分野に積極的に介入するようになっていったのである。米国政府は、国内の産業政策においては、企業の自由競争を尊重する傾向が依然として強いが、貿易面では、民間活動に積極的に介入するようになった。つまり、「介入主義」に大きく転換したのである。ヤングレポートで指摘された通商分野での提言は、現在の対中貿易協議にも大きな影響を与えているのではないか。

このように強化された米国の通商政策を担ったのが、米国通商代表部(USTR)だ。USTRは、1963年に大統領行政命令によって設立された通商交渉のための通商交渉特別代表部(STR)の後継組織だ。1974年に大統領府機関の一つとなり、関税法・通商法・通商拡大法に基づく通商協定の締結、運用を担った。

1980年代に入ると、USTRは、政府の通商政策全般に関わる強大な権限を得ることになった。具体的には、WTOなどの多国間交渉で米国を代表するようになったのである。さらに、1988年に発効した新包括通商法によって、USTRは通商法301条に基づく不公正貿易の調査・勧告などを行うことになるなど、その権限を一段と強化していき、現在に至る。

執筆者情報

木内 登英

エグゼクティブ・エコノミスト

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