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デジタル課税ではG7の議論は紛糾

2019/07/19

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課税対象で欧米間での意見に隔たり

7月17、18日にフランスで開かれたG7(先進7か国)財務相・中央銀行総裁会議では、フェイスブックが発行を目指す通貨・リブラへの対応に加えて、フェイスブックを含むGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)を念頭に置いた国際課税、いわゆる「デジタル国際法人課税」も議論された。前者については、厳しい規制を課すことで各国の足並みは見事に揃ったが、後者については米仏間での軋轢が目立ち、議論は思うように前進しなかった模様だ。

デジタル国際法人課税については、先般日本で開かれたG20(主要20か国・地域)財務相・中央銀行総裁会議で基本方針が合意され、2020年末までの最終合意が目指されている。

法人税は、企業のオフィスや工場など恒久的な施設(PE)がある国で課税されるというのが国際的なルールだが、GAFAに代表されるプラットフォーマーは、恒久的な施設を置かなくても、書籍や音楽のネット配信、オンライン広告など、オンライン上で国境を越えたサービスを行い、巨額の利益を上げることができる。そして、税率が低いタックスヘイブンの国に本社を置けば、大きな節税効果を挙げられる。こうした点が、企業間あるいは国の間で不公正感を生じさせてきたのである。

新たな法制度では、企業の本社機能がある国から、デジタルサービスなどの利用者がいる国に、より多くの税収を配分する仕組みが検討されている。個人データが生み出す収益やブランド力への貢献度を一定の計算式ではじき、それに応じた世界全体での利益が計算される。さらに、国ごとの売上高や利用者数のような指標に基づいて、各国が税収を分け合う仕組みが検討されているという。

議論のベースとなっているのは、経済協力開発機構(OECD)が今年2月に示した3つの案だ。第1は、プラットフォーマーに限らず、すべての企業が各国に保有するデータやブランド価値といった無形資産に課税する米国案、第2は、ネット上のクリック数などで各国ごとのネットサービス利用を計測し、その実績に応じて課税する英国案、第3は、各国での継続的売り上げに課税するインド案である。

G7財務相・中央銀行総裁会議で対立が目立ったのは、課税方式よりも課税対象だった。欧州側は、プラットフォーマーを主な対象とする考えであるのに対して、米国は、それでは米企業だけが狙い撃ちされるとして、より幅広い企業を対象とすべきと主張し、両者の溝は埋まらなかった。

フランスでの新規課税の先行導入が批判の的に

また、企業の課税逃れ対策として、法人税率に世界共通の「最低税率」を設定することも議論された。こちらの方は、各国間での対立の構図はそれほど強まらなかったようだが、それでも英国やカナダなどが慎重姿勢を示し、議論は大きく前進しなかった模様だ。

デジタル国際法人課税の議論を紛糾させる原因の一つとなったのが、フランスが新たな課税制度を先行して導入したことだ。フランス議会上院は11日に、米プラットフォーマーを対象にしたデジタル課税法案を可決した。世界で年間7億5,000万ユーロ以上、かつ仏国内で年間2,500万ユーロ以上の売上高がある企業を対象とし、フランス国内での収入に3%を課税する。

フランスが、こうした課税制度の導入方針を決めたのは、昨年末のことであり、G20、G7で国際ルールが議論され始める前のことだ。デジタル課税を巡っては、欧州連合(EU)が長らく議論していたが、タックスヘイブンのアイルランドなどの反対で合意に失敗した。そこで、フランスは、単独での導入を決めたのである。米プラットフォーマーが儲けすぎている、というフランスの世論への配慮という国内事情もあるだろう。英国も独自のデジタル課税の導入準備を進めている。

しかし、デジタル国際法人課税の議論をする中で、特にG7議長国であるフランスが先行して課税制度の導入を決めたことは、他国からの批判を招いている。特に米国は、この税が米国企業を不当に標的にしているとして強く反発し、制裁措置も視野に入れた調査を既に始めている。今後、両国間の外交問題にまで発展する可能性もあるだろう。

このように、広い意味では同じプラットフォーマーへの規制強化となるリブラへの対応とデジタル国際法人課税では、G7各国の結束には大きな開きが出た。各国間での利害対立の深刻さを踏まえると、国際課税の最終合意を2020年末までに目指すとする方針は、その実現が大いに危ぶまれるところだ。

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