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懸念される日韓経済問題の広がり

2019/07/22

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日本の輸出規制はさらに第2弾へ

韓国銀行(中央銀行)は7月18日、政策金利を年1.75%から1.50%へ引き下げる決定をした。政策金利の引き下げは3年振りとなる。金融市場では8月の金融通貨委員会での金利引下げが広く予想されていたため、予想よりも早いタイミングでの実施は、驚きを持って受け止められている。金融通貨委員会後の記者会見で李柱烈総裁は、「日本の輸出規制が韓国の輸出や経済に与える影響は、小さいとはいえない」と発言した。世界経済の低迷を受け、韓国経済は以前より減速傾向にあったが、日本による輸出規制が韓国経済の下振れリスクを高め、韓国銀行の政策金利引き下げの時期を早めた可能性がある。

韓国は輸出のGDP比が約4割と輸出依存度が高い経済だ。さらに半導体が輸出の2割超を占めているが、日本の輸出規制はこの半導体生産に必要な素材を対象にしたものであり、韓国経済の先行きのリスクを顕著に高めている。他方で、韓国製の半導体は多くのスマートフォンやテレビなどに使われるが、韓国での半導体生産が滞れば、そうした完成品の生産にも支障が生じ、そこに部材を供給する日本企業にも悪影響が広がってくる。日本の輸出規制の悪影響は、韓国経済ばかりでなく日本経済にもブーメラン効果として返ってくるのである。

日本は韓国への輸出規制を7月1日に発表した。その背景には元徴用工問題があると考えられている。輸出規制は、半導体と折り曲げ可能なディスプレイに不可欠な材料3品目の出荷を、事実上遅らせる措置である。

7月23、24日にジュネーブで開かれる世界貿易機関(WTO)の一般理事会で、日本の韓国向け輸出規制の強化措置について、日韓両政府は双方の意見を述べる。WTO協定違反とする韓国に対して、日本は安全保障上の見直しであってWTO協定違反ではないと主張し、議論は平行線に終わる公算が大きい。

さらにその後、日本は8月末に規制強化の第2弾を発動する見通しである。その際には、日本は韓国を「ホワイト国」の指定から外す。そうなれば、軍事転用の恐れが低い食品・木材以外のほぼすべての品目で、個別の審査・許可が必要になり、韓国向け輸出が一層滞る可能性が出てくる。こうした段階的な規制強化の手法は、トランプ政権の対中政策とも重なって見える。

韓国では「日本ボイコット」

日韓政府間の貿易紛争は、韓国では大規模な「日本ボイコット」を呼んでいる。ボイコットの対象となるのは、家電製品や衣料品などの日本製品、日本への旅行などだ。韓国人の大半は日本製品の購入を控えている、との世論調査の結果もあるという。韓国のある航空会社は、日本への修学旅行のキャンセルがかなり出ていると指摘している。また、大手旅行会社によると、日本行きの新規予約が大幅に落ち込んでいるという。

韓国に進出している日本企業については、ソウルのユニクロの複数の店舗前で、「日本をボイコットせよ」とのカードを掲げた人々による抗議行動が見られた。ロイター通信によると、数万人に上る韓国人がネット上で日本製品のボイコットと日本旅行の自粛を呼びかけ、さらには来年に東京で開催される五輪のボイコットも求めているという。

2013年にも竹島問題を受けて韓国では日本製品のボイコットが広がったが、今回は、日本の輸出規制措置が韓国経済、国民生活に直接影響を与えていることから、国民の反発がより強く、ボイコット運動も一層激しいという。

このように、世界経済が陰りを見せる中での経済活動が関わる両国間の対立は、米中貿易戦争と同様に両国経済を共に消耗させ、疲弊させる。その最大の被害者は、両国民となるだろう。韓国の要請を受けてトランプ米大統領が、日韓問題の仲裁に乗り出す模様だが、事態をより複雑化させかねない。底流にある歴史問題は、両国間での粘り強い話し合いを通じて、解決を模索して欲しいところだ。

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