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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

参院選後に山積する経済政策課題

2019/07/22

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8月に「財政検証」公表か

参院選が終わったことで、政府が選挙後に事実上先送りしてきた経済政策上の案件が浮上してくる。それが、公的年金の「財政検証」と日米貿易協議だ。そして、10月には消費増税という大きなイベントが控えている。

参院選の終了を受け、政府は有権者の反応に過度に配慮した政策を行う必要性は幾分低下したとは言える。しかし、安倍首相は自身の任期中(2021年9月まで)の衆院解散の可能性を示唆しており、選挙を意識した政策運営はなお続くことになろう。

5年に一度、厚生労働省が将来の年金給付の水準を示す「財政検証」が、8月にも公表される見込みだ。政府はこの財政検証を踏まえて年金改革をまとめ、来年の通常国会に法案を提出する。財政検証では、現役世代の収入に対する年金世帯の年金額の割合を示す「所得代替率」は、前回2014年の62.7%からさらに低下し、将来見通しも一段と低下することが見込まれる。公的年金制度の機能低下が、より浮き彫りになるだろう。政府は、年金給付の抑制のための支給開始年齢の引き上げは「行わない」と骨太の方針に盛りこんでいる。そこで、給付抑制の手段としては、人口減などに応じて給付を抑える「マクロ経済スライド」の機能強化措置等が、新たな年金改革の注目点となろう。

安倍首相は、自身の任期中は10月に10%に達する消費税率のさらなる引き上げは実施しない方針を明らかにしている。また、今後10年間くらいは必要ないとの考えを示している。これによって、社会保障改革手段の選択肢はさらに狭められてしまった。

本格化する日米貿易協議

トランプ米大統領は、5月の訪日時に日米貿易協議に関して、「8月に何かを発表できると思う」と突如発言した。選挙への悪影響が懸念される日米貿易協議の本格化を、米国政府が参院選後に先送りすることで日本政府に配慮した可能性がある。その場合、日本政府は米国政府に借りを作ったことになり、日本にとっては、協議が本格化すれば、厳しい条件を米国政府から突き付けられる可能性が高まった。

日米政府は、7月中にも事務レベル、次官級の貿易交渉を行う可能性がある。7月24日にも開かれる、との報道もある。また、8月には茂木敏充経済再生担当相とライトハイザー米通商代表による閣僚級協議も開かれる見通しだ。ここでは、個別品目の関税などについて本格協議が始まるだろう。

現時点で、トランプ政権の最大の関心は、日本の輸入農産物・肉類の関税率引き下げである模様だ。これは、米国の農業関係者が強く要請していることであり、2020年の大統領選挙への影響を考えれば、トランプ政権にとって優先課題となる。他方、日本政府は、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定で合意した農産物関税率までの引き下げしか認めない方針を維持している。

日本政府は、この条件の下で米国からの輸入農産物・肉類の関税率引き下げを認める一方、米国政府は、日本政府が要求している2.5%の日本からの輸入自動車関税の撤廃に応じる。これが、日本にとっては最良の決着となるだろう。

しかし、米政府がそれ以上の幅で輸入農産物・肉類の関税率引き下げを要求すれば、日米間の交渉は難航し、早期合意は難しくなる。その場合、日本政府は農産物・肉類では譲歩しない一方、対米自動車輸出の削減に応じるという可能性もあるだろう。しかし、その際には、日本経済への悪影響がより深刻となる。

日米間での交渉が比較的スムーズに進む場合には、9月下旬にニューヨークで開かれる国連総会に合わせた首脳会談で大枠合意に達する可能性も指摘されている。

消費税対策上積みの可能性

参院選を終え、日本政府にとって最大の経済イベントとなるのは、10月に予定されている消費増税だ。消費増税による直接的な経済への影響は大きくないと筆者は考えるが、駆け込みの反動が多少なりとも生じることは避けがたく、半年程度の間は、それが、一時的な駆け込みの反動なのか、持続的な消費の弱さの反映なのか判然としない時期が続くことになる。

そのタイミングで、海外経済が減速感を強めれば、政府は追加景気対策として、2兆円超の現在の消費税対策を相当規模上積みする可能性が高い。早ければ、10月頃に召集が見込まれる秋の臨時国会で、補正予算が組まれることになろう。

次の衆院選を睨み、政府は消費増税による景気の悪化を非常に懸念している。少なくとも、景気対策に最大限注力したとの実績を作っておくことは、衆院選を視野に入れれば重要なことと考えるだろう。その結果、政府は過剰な財政拡張策を採用する可能性がある。政府は、消費増税によって景気の下振れリスクが生じる場合には、必要な景気対策をとると繰り返し明言しており、消費税対策の上積みは既に既定路線となっている感もある。

この施策をきっかけに、財政政策は一気に財政拡張路線、財政悪化容認への転換される可能性がある。その場合、公的年金など社会保障制度改革もあわせて後退してしまうことが懸念されるところだ。

執筆者情報

木内 登英

エグゼクティブ・エコノミスト

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