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中国の為替操作国認定で強まる為替戦争

2019/08/06

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1ドル=7人民元の節目超え

米財務省は8月5日、中国を為替操作国に認定したと発表した。きっかけとなったのは、同日に人民元が1ドル=7人民元の節目を超え、2008年来の人民元安水準に達したことだ。人民元安が進んだのは、トランプ政権が8月1日に中国に対する第4弾の追加関税措置の実施を発表したことだ。トランプ大統領は、この人民元安は、中国政府が米国への対抗措置として意図的に容認しているものと考え、これを「重大な(G20合意)違反行為」であり「為替操作」にあたると批判し、米金融当局が対抗することを望むとしていた。米財務省の措置は、こうしたトランプ大統領の意向を受けたものだ。

昨年来、人民元の対ドルレートは、米中貿易摩擦が激化すると下落するという傾向を繰り返し見せてきた。トランプ政権による対中追加関税措置の発表が、人民元急落のきっかけになったことは疑いがない。これを受けて、中国政府が意図的に人民元安を容認したのか否かは明らかではない。ただし、中国政府も1ドル=7人民元を超える人民元安の進行は強く警戒していたはずだ。

心理的な節目となるこの水準を超えて人民元安が進むと、中国国民が法定の限度額を超えて、資金をドルなど海外資産に移す傾向が強まり、深刻な資金逃避につながる可能性があるためだ。2015年の人民元切り下げ後に生じたこうした資金逃避が繰り返されることは、中国政府は望んでいないはずだ。

トランプ政権ドル安志向のリスク

米国の為替操作国の認定は、財務省が年2回議会に提出する為替政策報告書のなかで示される。それ以外のタイミングでの認定は異例なことだ。この認定は、対米貿易で競争上の優位を得る目的で為替を操作する国に対してなされる。米国政府はまず、為替操作国に認定された国と協議を行い、通貨の切り上げや為替介入の透明性確保を求める。今回は、国際通貨基金(IMF)と協力して、中国に是正を求めるという。それでも改善が見られない場合には、制裁関税を発動する。1994年7月に米財務省は中国を為替操作国に認定したが、それ以降、25年間は為替操作国に認定された国は出ていなかった。

今回の措置は、米中貿易摩擦を一層激化させるものであるとともに、米中貿易摩擦が為替政策を巡る対立へとその比重が移ってきていることを示していよう。トランプ政権は、貿易相手国の通貨安に対して過敏になっている。通貨安政策をとっている国に対しては、制裁関税を課すことで米国の競争条件を回復する措置の導入も検討されている。

そして、為替政策を巡るトランプ政権の関心は中国にとどまらないだろう。日欧などそれ以外の国でも、金融緩和を通じた事実上の通貨安政策が採用されているとの疑念を強めているのだ。今後は、日欧などに対しても、通貨切り上げや金融緩和を控えることを要請する可能性があるだろう。

さらに、思う通りにドル高修正がなされない場合には、トランプ政権が単独でドル安誘導を狙った為替介入を実施する、あるいはその可能性を強く示唆する可能性も出てこよう。この場合には、米国からの資産逃避の動きから、急速なドル安、株安傾向が強まり、世界の金融市場を大きく混乱させる可能性がある。

双子の赤字の拡大から、既にドルに対する信認が揺らいでいるもとで、トランプ政権がドル安志向を強めていることには、このような大きなリスクが潜んでいる。

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