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FRBへの政治介入を批判する4人の議長経験者

2019/08/08

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歴代FRB議長がパウエル議長に援護射撃

8月6日の米ウォールストリート・ジャーナル紙に、米連邦準備制度理事会(FRB)の政治からの独立の重要性を説く論説が寄稿された。この寄稿は、歴代FRB議長、ポール・ボルカー、アラン・グリーンスパン、ベン・バーナンキ、ジャネット・イエレンの4氏の連名によるものだ(注1)。

そこでは、FRBの金融政策が短期的な政治的意図の影響を受けることの弊害が指摘されている。明示はされていないものの、FRBに対して大幅利下げを繰り返し迫るトランプ大統領への強い批判が、この寄稿に込められていることは明らかだ。

ここでは、短期的な政治的ニーズに応える金融政策を実施すると、長期的には高いインフレ率や低い成長率など、好ましくない経済環境を生む、との研究結果が紹介された。また、金融政策が政治の影響を受けているとの認識が広がるだけでも、中央銀行に対する国民の信認が低下し、それが不安定な金融市場や経済の悪化を生む、とも指摘している。

さらに、FRBが政治から独立していることが重要であるがゆえに、FRB理事には14年間(議長、副議長には4年間)という長い身分保障が与えられており、彼らは違法行為やそれに類する重大な問題がない場合には、政府との意見の相違などを理由に解任されることはない、という規定を確認している。これは、パウエル議長の解任を検討したトランプ大統領に対する、事実上の強い批判となっている。また、トランプ大統領からの不当な攻撃に苦しむパウエル議長に対する、歴代FRB議長からの援護射撃でもあるだろう。

寄稿は、「現議長の4年間の任期が終われば、大統領は再任するか新たな人物を選ぶ機会を得る」とし、その際には「政治的な忠誠心や活動力ではなく、期待される能力や誠実さに基づいて議長が選ばれるよう望む」と締めくくられている。

寄稿は、一般に、中央銀行の政治からの独立の重要性について、教科書に書いてあるような内容をなぞったものであり、必ずしも新しい論点は見られない。しかし、そうした優れて常識的な意見を敢えて述べている点に、FRBとの関係で今までの常識を無視するトランプ大統領への強い批判が込められている、とも読める。ただし、トランプ大統領が歴代FRB議長のこうした意見に耳を貸すことはないだろう。

国民の間のFRB不信をどう変えるか

ところで、トランプ大統領が過去の慣例を破って、FRBに露骨に大幅な利下げの実施を迫る政治介入を繰り返すことを許しているのは、実は米国国民だとも言える。国民が、FRBの独立の重要性を十分に理解しているならば、トランプ大統領のFRBに対するこうした姿勢を強く批判するはずであり、そうなれば、来年の大統領選挙への悪影響も踏まえて、トランプ大統領はそうした行動を控えるはずだからである。

しかし実際には、トランプ大統領の政治介入に対して、国民からの強い批判は聞こえてこない。それは、国民がFRBの独立の重要性を十分に認識しておらず、また、強い信頼感を持っていないからではないか。歴代FRB議長の寄稿は、トランプ大統領へのメッセージであるとともに、こうした国民に対するメッセージでもあったのかもしれない。

国民がFRBに対して強い信頼感を持っていないことには長い歴史がある、との指摘もある。1790年、アレクサンダー・ハミルトン財務長官が合衆国銀行の設立を提案した。英イングランド銀行(中央銀行)を模範とし、一般市民や民間部門への融資と統一紙幣を供給する銀行の設立が提案されたのである。しかし、トマス・ジェファーソン国務長官はこれに反対し、政府による銀行設立は違憲だとも主張した。

その背景には、農業地帯の南部とその農家に浸透していた銀行に対する強い不信感があったという。南部の農家には債務者が多く、資金を借りる銀行を嫌悪する傾向が強かったのである。こうした伝統は、リーマンショック時に銀行を救済した、政府やFRBへの強い批判にも引き継がれているのだろう。

ジョージ・ワシントン大統領はハミルトン財務長官を支持し、結局、1791年に合衆国銀行の設立が承認された。しかし、合衆国銀行への強い不信感から、その後、合衆国銀行は2回も閉鎖されることになった。1907年の金融恐慌をきっかけに中央銀行の必要性についての議論が再び高まり、ようやく1913年に設立されたのがFRBなのである(注2)。

このような長い歴史に基づいた中央銀行に対する不信感を一気に払拭するのは難しいだろう。しかし、FRBがトランプ政権からの政治介入から身を守るには、国民の支持、理解がどうしても必要だ。国民からの信認を高めるために、FRBが今何をすべきなのか、もう一度真剣に考えてみる必要がありそうだ。

(注1)"America Needs an Independent Fed", Wall Street Journal, August 6, 2019
(注2)"Hating the Fed Is as American as Apple Pie", Wall Street Journal, June 24 2019

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