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米国逆イールド化は懸念すべきか

2019/08/16

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米国の逆イールドは内外経済の乖離を反映

米国では、10年国債利回りが一時的に2年国債利回りを下回る、いわゆる逆イールド化が生じた。景気後退の兆候とされるこの逆イールド化現象を受けて、14日の米国株価は大幅に下落した。

ところが、米商務省が15日に発表した7月小売売上高は、前月比0.7%増と、事前予想の平均値0.3%増程度を大幅に上回った。前年同月比では3.4%の増加と堅調を維持している。

海外景気の減速を反映する輸出、設備投資の弱さを、個人消費の強さが十分補っているのが、米国経済の現状である。7月の小売売上高を受けて、ウォールストリートジャーナル紙は「景気後退が間近とのシグナルを市場が発しているのに、国内の消費者はそれに気づいていない」と表現しているが、それは本当だろうか。

短期金利の水準は、米国経済の状況を反映しやすい一方、長期金利は海外経済の弱さを反映した海外長期金利低下の影響を受けやすい。この点から、米国の逆イールド化現象は、内外経済状況の乖離を反映しているという側面も強いのではないか。海外経済の減速がいずれは米国経済の減速に繋がる可能性はあるものの、現状ではその明確なリスクは見られない。

逆イールド化が景気後退の先行指標となるメカニズム

1957年以降の経験では、10年と2年、あるいは10年と1年の国債利回りで逆イールドが生じると、その後に景気が後退に陥るケースが多かったことは確かである。また、サンフランシスコ連銀によれば、10年と1年の利回りが逆転すると、それは向こう半年から2年の間に景気後退局面が始まるサインになるという。

逆イールド化が景気後退の先行指標となることの説明は幾つか考えられるが、代表的な2つの例を挙げれば、第1に、短期で資金を調達して長期で資金を貸出す銀行にとって、逆イールドが利鞘の悪化をもたらし、リスク許容度の低下から長期の資金貸出を抑制するインセンティブを高める。これが、いずれ景気を悪化させるのである。

第2に、長期金利は先行きの短期金利の見通し平均値で決まる(正確にはそれにタームプレミアムが上乗せされる)という期間構造モデルの考え方に従えば、逆イールドは、現在の短期金利が長期平均値を上回っているとの市場の判断を反映している。これは、現在の短期金利の水準が高過ぎて、つまり金融引き締めが行き過ぎて、景気を悪化させてしまうというオーバーキルのリスクを市場が感じていることの反映である。

逆イールド化は金融緩和効果への不信を反映も

しかし、逆イールド化が近い将来の景気後退入りを強く示唆しているとまでは言えないのではないか。実際、逆イールド化が生じても景気回復は続き、その後、逆イールドが解消されるケースも少なくない。これは逆イールド化が誤った警鐘となったケースであり、1966~1967年がこれに当たる。

また、逆イールド化は景気回復の中盤頃に既に生じ、そこから景気後退入りまでに相当の時間を要したこともある。1977年、2005年の逆イールド化などが、その例に当てはまるだろう。

さらに、現在の長期金利は、米連邦準備制度理事会(FRB)による国債買入れの影響を強く受けているという点が過去とは異なり、その結果、過去の経験則が単純に当てはまらないとも言えるだろう。

米連邦公開市場委員会(FOMC)のメンバーの中に、この逆イールドを警戒している向きが少なくない。セントルイス連銀のバラード総裁、ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁がその代表だ。その結果、逆イールド化が生じると、市場で追加緩和期待が高まり、それが長期金利を低下させて、イールドカーブのフラット化、逆イールド傾向の強化を促すことにもなる。そして、それが追加緩和期待を一段と高めるという形で循環が生じるのである。

ところで、追加緩和の期待が高まる一方、追加緩和の実施によっていずれは経済情勢が良くなるとの期待が高まる場合には、イールドカーブのフラット化、逆イールド化は必ずしも進まない。ところが、金融緩和の景気浮揚効果について金融市場が懐疑的であれば、逆イールド化が進んでしまうのである。

逆イールド化は米国景気後退の明確な兆候との解釈は正しくないと思われるが、景気がひとたび後退入りした場合に、金融緩和が必ずしも有効に働かないとの市場の懸念を逆イールド化が反映している、という面はあるのではないか。

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