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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

アルゼンチンはデフォルトが不可避か

2019/09/04

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外貨準備急減で政府は資本規制を導入

8月11日の大統領選・予備選挙がきっかけとなって生じたアルゼンチンの債務・通貨危機が、一段とエスカレートしている。

予備選挙で、ポピュリズム色が強い左派候補のアルベルト・フェルナンデス元首相に現職のマクリ大統領が大差を付けられたことから、10月27日の大統領選で左派政権が誕生するとの観測が強まった。さらに、マクリ大統領自身も、劣勢を挽回するために、最低賃金の引き上げなど大衆迎合色の強い財政拡張策に転じている。その結果、国際通貨基金(IMF)からの追加融資が受けられなくなるとの観測などから、アルゼンチンのデフォルト(債務不履行)懸念が強まり、大幅な通貨安を招いている。

通貨安傾向に歯止めがかからず、この1か月でペソは対ドルで3割近くも下落した。通貨安を食い止めるために中央銀行はドル売りペソ買い介入を実施している。しかし、目立った効果が見られない一方、外貨準備の急速な減少を招いている。外貨準備高は8月末時点で約541億ドルと1か月間で約2割も減った。これを受けて、アルゼンチン政府は9月1日に資本規制を導入した。個人のドル購入に上限を設定する一方、輸出企業には入手した外貨を5日以内にペソに換えることを義務付けるものだ。

資本規制が導入された2日には、ペソは薄商いのなか、対ドルで小幅に上昇したものの、例えば2028年償還のユーロ建て債は2%下落するなど、デフォルト懸念は和らいでいない。

既に事実上のデフォルト状態に

財政悪化を背景に、国内短期国債の借り換えも難しい状況となっている。そこでアルゼンチン政府は8月28日に、短期国債の償還を3~6か月延期すると発表した。これは、機関投資家が保有する国内法に基づく債券の返済期限延長計画である。

この措置は、元本と金利を引き下げるものではないものの、償還期限を一方的に変更していることから、「選択的デフォルト」に相当するだろう。実際、米格付け大手S&Pグローバル・レーティングスはその翌日に、アルゼンチンの短期国債の格付けを、一時的にデフォルトを意味する「D」、長期国債を「SD(選択的デフォルト)」に格下げした。30日にはデフォルト状態は解消されたとしたが、なお綱渡り状態が続いている。

他方で政府は海外の国債保有者に、対外債務の返済の猶予を求めることも発表した。IMFに対しては、その融資の返済期限延長を交渉している。アルゼンチンは昨年4月にIMFに救済を求め、合計で563億ドルの融資枠を得た。そのうちの445億ドルが既に実行されているが、残りについては実行されるかどうかは今後の交渉次第である。また、次期政権には、その返済の義務も重くのしかかることになる。

新興市場投資全体の見直しへ

2001年にアルゼンチンがデフォルトを宣言したときの政府債務は1,020億ドルであったが、現在はその倍以上の水準が積み上がっている。 2001年のデフォルトを受けて、アルゼンチン政府は2005年~2010年に大規模な債務リストラを行った。それが終わるまでは事実上の支払い停止が続き、2016年に改革派、財政健全派のマクリ現政権が登場して、ようやく正常化し始めた。アルゼンチンは長らく国際金融市場から締め出された状態にあったが、この時点でようやく国際金融市場に復帰したのである。

アルゼンチンの正常化を象徴したのは、2017年に償還期限が100年のドル建て債券を発行したことだ。しかしこの債券の価格は、年初から既に半分にまで下落している。

アルゼンチンの対外債務がデフォルトとなる可能性について、市場の見方を反映するCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の足元の水準は、1年以内に50%前後の確率でデフォルトが起こることを織り込んでいる。5年以内であれば、この確率は80%超にも上がる。

また、仮にアルゼンチンの対外債務がデフォルトとなった場合、その価値がどの程度切り下がるか、つまり海外投資家にどの程度損失が広がるかを示すヘアカット率は、現在の市場の期待では30%程度である。しかしこれについても、より大きく債務切り捨てを行わないと債務リストラの実施は難しいとの見方もあり、ヘアカット率は最終的に6割以上になる、との見方もある。

デフォルトは、アルゼンチンの復活を信じて投資を拡大させた海外投資家に大きな損失をもたらすものだ。高い利回りを求めて、米フランクリン・テンプルトン、ブラックロックなど大手機関投資家が、アルゼンチン債をファンドに組み入れてきた。

一時は新興国市場の優等生とみられ、賞賛されていたアルゼンチンの凋落、そしてデフォルト懸念は、グローバルな投資家にとって、新興国市場全体への投資をより慎重に見直すきっかけとなっている。

執筆者情報

木内 登英

エグゼクティブ・エコノミスト

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