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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

緩和手段の選択で大きく意見が割れるECB理事会

2019/09/10

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ECB理事会で5つの緩和手段の選択肢

9月12日の欧州中央銀行(ECB)理事会では、多くの論点と政策手段の選択肢が議論される、歴史に残る理事会となる可能性があるだろう。

少なくとも0.1%の利下げが実施される可能性はかなり高いと考えられるが、それ以外の政策がパッケージとして併せて実施されるかどうかについては、まだ不確実である。

実施の可能性が高い緩和手段は、その順番に第1に0.1%の利下げ、第2に金利フォワードガイダンスの修正、第3に利下げに伴う銀行収益への悪影響の緩和措置、第4に資産買入れ再開(正確には保有資産残高の再拡大)、第5にインフレ目標政策の大幅見直し、となろう。

日本銀行も示唆しているように、追加緩和再開の第一弾で、様々な政策の組み合わせを示すのか、それとも政策手段を温存するためにも、利下げだけを先行実施するのか、これが理事会内では大きな議論の対象となるだろう。

7月の理事会の議事要旨によると、低インフレの長期化を避けるために利下げと資産購入の組み合わせといった、包括的な緩和策が望ましいとの意見が出された。緩和策を小出しにするよりも、パッケージとして一気に打ち出した方が効果的、との指摘がなされたのである。

しかし、こうした考えが大勢を占めた訳では必ずしもなさそうだ。そもそも、政策手段を温存する前に、利下げと金利フォワードガイダンスの修正以外の政策手段の妥当性については、理事会内でコンセンサスが成立していない状況ではないか。小出しという意図よりも、意見がまとまらないがゆえにパッケージとして打ち出すことができないことになる可能性が、高まっているように思われる。

資産買入れ再拡大は今回見送られるか

緩和手段の第2の金利フォワードガイダンスについては、7月の声明文では「少なくとも2020年前半までは、現状あるいはそれよりも低い水準で金利を維持する」とされた。これを今回、「少なくとも2020年後半まで」などと、時間軸を延長し、緩和姿勢をより強める一種の追加緩和措置を講じる可能性は十分にある。

しかし、第3の利下げに伴う銀行収益への悪影響の緩和措置については、まだ理事会内でコンセンサスが成立していない可能性があるだろう。今回は実施が見送られる可能性の方が、幾分高いのではないか(本コラム「マイナス金利深掘りの副作用軽減を模索するECBと日銀」、2019年9月9日参照)。

第4の資産買入れ再開については、大きく意見が分かれるだろう。もともと過度な緩和に慎重な中核国のドイツ、オランダ、オーストリアは、既に慎重な意見を示している。注目されるのは、先週、フランス中銀総裁も、ECBが既に蓄積した資産は高水準にあり長期債利回りを大幅に押し下げている、との認識を示し、資産買入れ再開に慎重な姿勢を見せたことだ。中核国以外で大きな影響力を持つフランス中銀も資産買入れ再開に慎重であるならば、9月の理事会では資産買入れ再開は実現しない可能性の方が高まっているように思われる。

ラガルド新総裁は難しい局面でバトンを引き継ぐ

ただし、フランス中銀総裁は、「ECBがすべての政策手段を同時に使う必要はない」とも発言しており、9月以降であれば、経済環境次第で賛成に回る可能性がある。こうした点も考慮に入れると、資産買入れ再開は今年12月の理事会、あるいは来年年初の理事会で実施される可能性を見ておきたい。

ドラギ総裁は今年10月末に8年間の任期を終えるが、任期始め頃の2012年には「やれることはなんでもやる」との姿勢を示し、欧州債務問題で揺れる金融市場の安定回復に貢献し、名を挙げた。そうしたドラキ総裁としては、今回、多くの積極緩和策をパッケージとしてまとめ、強い姿勢を金融市場に示すことで任期を締めくくりたいと考えているのではないか。

しかし、ECB理事会内で意見が割れていることで、そうした政策の実施が難しいのだろう。9月の会合で、緩和手段の選択肢のうち第1の0.1%の利下げと第2の金利フォワードガイダンスの修正の組み合わせで終わるとすれば、より積極的な措置をECBに期待していた金融市場には、やや失望が広がる可能性もあろう。

これは、追加緩和措置をしばらくは温存したいと考える日本銀行にとっては、自らの政策と他の主要中銀の政策との乖離が大きく広がらず、その分、円高進行のリスクが和らげられるという点から、朗報といえるかもしれない。

ドラギ総裁の任期切れが近づき、幾分レームダック化していることが、ECB理事会内で様々な意見が噴き出してきている背景の一つだろう。ドラギ総裁は緩和への道筋をつけてからラガルド新総裁にバトンを渡すことになるだろうが、多くの緩和手段については理事会内で意見が大きく分かれる、という難しい局面のまま、ラガルド新総裁はそのバトンを受けることになるのだ。

執筆者情報

木内 登英

エグゼクティブ・エコノミスト

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