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政治と市場に支配されるFRBの金融政策

2019/09/12

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トランプ大統領と市場の緩和期待に逆らえないFRB

9月17から18日に開かれる次回連邦公開市場委員会(FOMC)では、7月に続いて0.25%の政策金利引下げの実施が予想される。しかし、予防的措置と説明しながら、連続して金利を下げる決定をすることは普通ではない。7月の0.25%の金利引下げの経済効果が、僅か1か月半の間に確認できるはずがないからだ。

つまり、次回FOMCで予想される0.25%の金利引下げは、純粋な予防的措置とは言えないだろう。それは、米連邦準備制度理事会(FRB)に大幅な緩和を迫るトランプ大統領の要求を部分的に受け入れるという、政治配慮という面がある。昨日もトランプ大統領はFRBにマイナス金利政策の導入を呼びかけるなど、その要求を一段とエスカレートしている。

そこでFRBが大幅な利下げを実施すれば、政治に屈した印象となってしまう。他方、利下げを見送れば、トランプ大統領のFRB批判が一段とエスカレートしてしまう。そうしたバランスのなかで、連続で0.25%の小幅な金利引下げが実施されるのではないか。

連続利下げを後押しするもう一つの要因は、市場の期待を損ねないとの配慮である。この点から、FRBの政策は、政治と市場の双方に既に支配されてしまっている面があると言えるのではないか。

市場の緩和期待を冷やしてしまうと、長期金利が上昇し、それが米国経済に悪影響を与えてしまう可能性がある。パウエル議長は9月6日に開かれたチューリッヒの討論会で、「労働市場はなお好調」、「われわれは、リセッション(景気後退)は予想していない」と強気の見通しを述べた一方、「金利を引き下げるとの見通しが経済を支えている」、「これが、経済見通しがなお良好な理由の一つだ」とも述べている。

長期金利低下にも支えられ非製造業は堅調

経済見通しが良好であれば、追加緩和の必要はないのだが、仮に追加緩和を見送って、先行きの金融政策に対する市場の期待が変わり、長期金利が上昇してしまえば、良好な経済見通しが崩れてしまう、ということなのだろう。この点から、FRBの政策は、既に市場に支配されている感がある。

実際、米国経済は長期金利の動きに非常に敏感である。FRBの政策金利引下げの直接的な効果よりも、金融緩和を期待した長期金利低下がもたらす経済効果の方が圧倒的に大きい。5月以降、米国の長期金利は大幅に低下したが、その効果は1四半期~2四半期程度で経済に表れるのが普通だ。その効果は当面の米国経済を下支えするだろう。

7月のFOMC以降に発表され、特に注目された経済指標は、8月分ISM製造業指数と8月分雇用統計の2つである。共に、海外経済の影響、米中貿易摩擦の影響を大きく受けやすい製造業の活動の軟調を裏付けている。

8月分ISM製造業指数は49.1と7月の51.2から低下し、判断の分かれ目である50を下回った。これは確かに製造業の活動の軟調ぶりを示している。しかし、これを米国経済が後退局面に陥った、あるいは陥りつつある明確な証拠とは言えない。1998年、2003年、最近では2016年初めにもこの指数は50を下回ったが、いずれの時期も米国経済は後退局面に陥らなかった。

個人消費の強さを背景に、非製造業は比較的堅調を維持している。実際、8月分ISM非製造業指数は56.4と、7月の53.7から予想外の改善を見せている。

足もとの米長期金利上昇に注意

8月分雇用統計でも、製造業の弱さが確認された。同部門の残業時間は前年同月比で9%近く減少し、2015年以来の大幅減となった。しかし全体としては、米国経済が依然として安定を維持していることを示唆したと言えるだろう。失業率は3か月連続で横ばいの3.7%となり、ほぼ50年ぶりの低水準にとどまった。 非農業部門就業者数は13万人増加と事前予想を幾分下回ったものの、6~8月の就業者数の伸びは月平均で15万6000人と、雇用が拡大していた過去8年間の平均である19万人とそれほど違わない水準が維持されている。長期金利低下にも後押しされた、個人消費の堅調さが米国経済全体を下支えしているのが現状だ。

10年国債利回りは、5月から8月にかけて1%以上も下落した。しかし9月に入ってからは0.3%近く上昇に転じている。今後も長期金利が上昇傾向で推移する場合には、米国の個人消費には再び逆風となる可能性があるだろう。

しかし、そうした効果が表れるのは早くても今年末と考えられる。当面は、米国経済は比較的安定を維持することが見込まれる。その中で、FRBはFOMCごとに0.25%ずつの利下げを続ける可能性がある。その場合には、予防的措置とのFRBの説明は次第に難しくなり、政治と市場に支配されるFRBの金融政策の現状がより露呈されよう。

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