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足もとの長期金利反転は良い上昇か悪い上昇か

2019/09/17

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米国のインフレ率は予想以上の上昇

春先から大幅に低下していた世界の長期金利は、足もとで上昇に転じている。これは、日本銀行にとってはかなりの朗報である。日本銀行がイールドカーブ・コントロールで目標値とする10年国債利回りは、一時-0.3%にまで低下したが、足もとでは-0.2%程度の変動許容レンジの下限を上回る水準にまで戻している。その結果、今週の金融政策決定会合で、変動許容レンジの修正などを発表する必要性は低下しているだろう。

さらに、米国の長期金利が上昇し、日米金利差が拡大したことで、為替市場ではドル高・円安傾向が生じている。円高進行、特に1ドル100円に接近あるいはそれを超える円高は、日本銀行に短期金利引下げなど追加緩和策の実施を強いるきっかけとなるが、その可能性は低下している。できる限り追加緩和策の実施の時期を先送りしたいと考える日本銀行にとっては好都合である。

ところで、世界の長期金利が足もとで上昇に転じた背景は何だろうか。それまでの急速な低下の反動という側面もあるだろう。他方、世界的な長期金利の上昇が、世界的な同時株高傾向と並行して生じていることから、先行きの経済情勢の改善など、市場の楽観論(リスクオン)を背景としている「良い金利の上昇」であることが推察される。

しかし、この長期金利の上昇が100%良い金利の上昇と言い切れるのかどうかについてはやや疑問もある。いずれかのタイミングで、良い金利の上昇が悪い金利の上昇に変容してしまうのではないか、との不安もある。気を付けておかねばならないのは、米国でのインフレ率の上昇だ。

米労働省が9月12日に公表した8月の消費者物価指数(CPI)では、コア物価指数(食品・エネルギーを除く)は前月比0.3%上昇、前年同月比2.4%上昇となった。これは、昨年7月以来の高い上昇率である。医療費は前月比+0.7%と、2016年8月以来の上昇幅となった。ひっ迫する労働市場環境の下での賃金上昇が、価格に転嫁されている可能性も考えられる。足もとの原油価格高騰の影響にも留意したい。

良い金利上昇が悪い金利上昇に転じるリスク

米連邦準備制度理事会(FRB)が物価の目安としているコアPCE(個人消費支出価格指数)は7月に前年同月比1.6%上昇した。この先は、目標水準の+2.0%へと接近していく可能性があるだろう。

春先以降の長期金利の大幅低下が、米国では当面の家計支出を刺激する中、インフレ率の上昇傾向が続けば、FRBの金融緩和策の妥当性に対する議論が生じてくる可能性があるだろう。トランプ大統領の緩和要請という政治的圧力に応じて拙速な緩和策が行われている、との見方が市場に広がれば、金融政策への信認の低下とともに中長期的な物価上昇見通しは高まり、その結果、長期金利は一段と上昇することになるかもしれない。

これは、金融緩和を求める政治的圧力に屈して、FRBが物価の安定という使命を犠牲にしているとの観測を背景とする、いわば悪い金利の上昇である。その場合、中長期的な通貨価値安定への不安からドル安傾向が生じ、海外投資家から米国のドル建て資産が敬遠されることで株安傾向が生じる可能性もあるだろう。そうなれば、世界の金融市場は一転不安定となる。

また、ドル安円高傾向となれば、日本銀行が追加緩和策措置を講じる必要性も高まっていき、できる限り追加緩和策の実施時期を先送りしたいと考える日本銀行にとっては一転、逆風となる。

現状では、概ね良い金利の上昇が生じていると言えるだろうが、部分的にはこうした悪い金利上昇の要素も含まれているのではないか。そうした側面が先行き強まっていくリスクについても、今の時点から注意しておく必要があるだろう。

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