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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

米中貿易部分合意も完全合意は見通せず

2019/10/15

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「第1段階の合意」は問題先送り

米国と中国は、10月10、11日の2日間ワシントンで開かれた貿易を巡る閣僚級協議を受けて、部分的な合意に達した。トランプ米大統領はこれを「第1段階の合意」と表現している。

トランプ政権は、昨年7月以降に制裁関税第1~3弾として発動した2,500億ドル相当の対中追加関税の税率を、10月15日に25%から30%へと引き上げる予定だったが、今回の合意を受けてこの発動を見送ることを決めた。12月15日に実施予定の約1,600億ドル分の中国製品への追加関税率引き上げ措置については、現状では撤回していない。

今回の部分合意と対中追加関税率引き上げの見送りは、両国の貿易を巡る対立が世界経済の下振れリスクを一段と高める、との懸念を当面は緩和するものだ。株高傾向など、少なくとも目先の世界の金融市場には好影響を与えるだろう。

今回の合意には、中国が最大500億ドル規模で大豆や豚肉など米国産農産物の購入を拡大させることに加え、中国の技術移転強要の是正、知的財産権の保護、金融サービス開放、為替制度の透明性向上などが含まれるという。

他方、トランプ政権が中国側に強く求めてきた国有企業改革、産業補助金の見直しなどについての合意は含まれていない。いわば、簡単に合意できる部分だけ部分合意したものであり、米国側にとっては問題先送りの側面が強い。

大統領選挙を意識したトランプ政権の譲歩

ところで、今回、中国が受け入れた合意内容は、昨年、米中貿易摩擦が始まった時から、中国側は受け入れる姿勢を明らかにしていたものばかりだ。輸入拡大で対米貿易黒字を大幅に削減する施策を、中国政府は当初から検討していた。米中対立が純粋な貿易問題であるならば、その時点で対立は終わっていたはずだ。

しかし実際にはトランプ政権は、国が強く関与する中国の経済体制、つまり国家資本主義というシステムを変えることを強く望んだ。米国にとっては、それが米国の経済、産業、先端技術、安全保障面での優位を脅かすものであったからだ。ただし、経済体制の修正は政治体制の修正にもつながることから、中国政府はそれを受け入れず両国の対立は長期化した、というのが今までの経緯である。

今回の部分合意には、中国側が新たに米国側に大きく譲歩したという要素は見当たらない。中国政府は体制変更に関わる部分では、がんとして譲らなかったのである。合意が成立したのは、中国の経済体制の変革という要求を一度ひっこめ、簡単に合意できる部分で合意することを受け入れた、トランプ政権側の譲歩によるものだ。

そして、トランプ政権がこのような譲歩を見せたのは、来年の米大統領選挙戦への配慮であることは間違いない。下院で大統領弾劾調査が始められるなど、政権に強い逆風が吹く中、来年早々に米大統領選挙戦が本格化する前に、対中貿易協議で何らかの外交成果を有権者にアピールしておきたい、という狙いがあったはずだ。

これは、対日貿易協議で、自動車分野での合意を先送りし、米農家の関心が高い農産物分野での合意、つまり日本の農産物関税率引き下げで先行的に合意したことと同じ戦略と言える。

これに加えて、米中対立が米国経済に深刻な悪影響を与えているとの懸念が高まっており、それが米大統領選挙戦に与える悪影響に配慮した、という側面も背景にあるだろう。

米中覇権争いは終わらない

しかし、米中貿易対立の本質である、米中間の経済体制を巡る覇権争い、つまり米国の「市場主義」と中国の「国家資本主義」との対立が解消されるめどは全く立っていない。米国議会で民主、共和双方に広がる強い反中姿勢を踏まえれば、仮に米国で政権交代があったとしても、大国間の覇権争いはなお続くだろう。半永久的に続くのかもしれない。

さて、今回の部分合意を、世界の金融市場はとりあえず好感するだろう。米国では株価上昇が見られたが、世界経済及び日本経済の下方リスクの緩和とドル高円安傾向を受けて、日本の株式市場にも目先は追い風となる。

他方、米連邦準備制度理事会(FRB)が今月末に政策金利を連続で引下げる可能性は、今回の部分合意で幾分下がった可能性がある。それでも50%をやや上回る確率で、政策金利は引下げられるのではないか。他方、日本銀行が今月末に追加緩和を実施する可能性はもともと低いと考えられたが、今回の部分合意とドル高円安傾向を受けて、その可能性は一段と低下したと見ておきたい。

米中貿易対立による追加的な経済への悪影響はやや緩和される面があるとはいえ、今までとられてきた追加関税措置の悪影響は今後予想外に大きく表面化してくる可能性もある。また、部分合意を受けても、米中間の覇権争いは終わることはなく、世界経済への悪影響への懸念はなお強く残るはずだ。

この結果、今回の部分合意は日本を含め、世界の金融市場の流れを大きく変えるような、いわゆる「ゲーム・チャンジャ―」とはならない。

執筆者情報

木内 登英

エグゼクティブ・エコノミスト

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