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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

FRBは財務省短期証券買入れを増額

2019/10/15

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短期金融市場の混乱が金融政策の障害に

米連邦準備制度理事会(FRB)は11日、10月15日から財務省短期証券(TB)を毎月600億ドル規模で買入れることを発表した。連邦公開市場委員会(FOMC)は10月4日にビデオ会合を開き、短期金融市場の状況について議論した。この中で、バランスシート拡大のためにTB買い入れ増額を行うことを全会一致で決めたという。

買い入れは2020年の4-6月期まで継続する。金融調節を担うニューヨーク連邦準備銀行が9月から実施してきた臨時の資金供給も、少なくとも2020年1月まで続ける。

この措置は、9月に生じた短期金融市場の混乱を受けたものだ(本コラム、2019年9月20日「謎が深まる米国短期金融市場の混乱」、2019年10月3日「米国レポ市場混乱への対応を探るFRB」参照)。

レポ金利が急騰したことで、FRBが政策金利と位置付けるFF(フェデラルファンズ)金利を誘導目標レンジ内に維持することに困難が生じた。それは金融政策の効果を損ね、また金融政策の信認を損ねるものだ。そうした事態を回避するため、短期金融市場への資金供給を強化したのである。

金融緩和とは異なる措置

これは、追加的な金融緩和効果を狙った措置ではなく、既存の金融政策の効果を確保するための市場安定化措置と言える。実際FRBは、「純粋に技術的な施策で、現在の金融政策を変更するものではない」と説明している。パウエル議長も事前にこの点をことさら強調していた。

FRBは2017年から量的緩和の縮小に転じ、民間銀行がFRBに持つ当座預金はこの2年間で34%も減った。こうした余剰資金の減少が、足もとでの短期金利上昇の原因、との考えに基づいて今回の措置が決められたのである。

今回の措置で、FRBのバランスシートは再び拡大に転じる。それを金融緩和措置と考える向きもあるだろう。FRBのバランスシートの規模、マネーの供給量が経済効果を持つと考えるならば、今回の措置は追加緩和策だ。

しかし、FRBが2008年に大規模資産買入れ策(LSAP)を始めた際に、当時のバーナンキ議長は、これはFRBにとって負債となるマネーの供給量を拡大させることを通じて政策効果の発現を目指す「量的緩和策」ではなく、資産側で証券を買入れることを通じて長期金利の低下を促す「信用緩和」だと説明した。FRBはその後も、この解釈を引き継いでいるのである。

TBの買入れを増やすことで、FRBのバランスシートの規模、マネーの供給量は再拡大するが、イールドカーブ、特に長めの金利の水準に与える影響は小さいことから、金融緩和策ではない、というのがFRBの説明だろう。

短期金融市場混乱の原因究明は引き続き重要

ただし、実際には、これは追加緩和とも受け止められるグレーな措置とも言える。この施策が長めのゾーンの財務省証券買入れ増額を伴う、本格的な資産買入れ策の再開へと、いずれつながっていく可能性も考えられるところだ。

10月末のFOMCでは、政策金利の引下げ見送りを決めると同時に、このTB買入れ増額措置を決め、いわばゼロ回答を避けることで、積極追加緩和を要求するトランプ大統領の強い批判をかわすことも選択肢にあったのではないか。それまでは、ニューヨーク連銀の資金供給でしのぐこともできただろう。

しかし、FOMCよりも前のこのタイミングでこの措置の実施を決めたことで、政策金利の引下げは、今回の措置とは別に判断することになった。

ところで、短期金融市場混乱の原因はまだ分かっていない。FRBのバランスシート縮小以外にも、トランプ政権下での財政赤字拡大に伴う財務省証券発行急増も、短期金融市場での資金不足と金利上昇の原因の一つである可能性もある。また、国際金融規制の影響も考えられるところだ(本コラム、2019年10月3日「米国レポ市場混乱への対応を探るFRB」参照)。特に、過剰な金融規制がレポ市場の流動性を低下させ、市場機能を損ねているのであれば、非常に深刻な問題だ。

それに対して、FRBが今回の資金供給拡大措置で対応する、いわば対症療法的な解決を図るのは本当に正しいのか。当局は今後も短期金融市場混乱の原因究明に努め、規制の見直しの可能性も含めて、市場機能の回復、正常化に必要な最適な措置を模索する必要がある。

執筆者情報

木内 登英

エグゼクティブ・エコノミスト

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