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新たな専務理事のもとでIMFは変わるか

2019/10/18

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構造改革の重要性を訴えるIMFの新専務理事

現在、IMF(国際通貨基金)・世界銀行の年次総会が、ワシントンで開かれている。筆者もその関連会議に参加するため、この地を訪れている。

今回は、IMFの専務理事がラガルド氏からゲオルギエワ氏に交代して初めての年次総会である。

IMFが10月15日に発表した世界経済見通しでは、世界の実質GDP成長率は+3.0%と、前回7月時点の見通しから0.2%ポイント下方修正された。5回連続での下方修正だ。ゲオルギエワ専務理事は18日の記者会見で、今回の米中貿易協議の部分合意によって、米中貿易戦争が世界のGDPに与える影響はやや緩和される、との見通しを示した。IMFはその影響を今まで0.8%程度と推計していたが、部分合意によって0.2%程度小さくなる、との見通しだ。

18日に開かれた世界経済の見通しを議論する会議(パネルセッション)(注)にもゲオルギエワ専務理事はパネリストとして参加していたが、同氏も含めて各パネリストらが示した世界経済の見通しは、それほど悲観的なものではなかった。米中貿易協議の部分合意が影響したのかもしれない。

この先、景気情勢が悪化した際の政策対応についても、同会議で議論された。ゲオルギエワ専務理事は、金融緩和の余地と効果がもはや小さい点、さらに、政府債務が積み上がった国々では、財政拡張の余地もまた小さい点を指摘した。同氏は、金融緩和、財政拡張策ではなく、経済の潜在力をさらに高める構造改革こそが重要だ、と主張したのである。構造改革の具体策としては、人的資源への投資を促す措置を挙げた。他のパネリストも、構造改革の重要性、特に教育制度改革の重要性を挙げていた。

近年のIMFは、金融緩和や財政拡張策を容認する姿勢を強めたように思う。それは、ラガルド前専務理事の時期、あるいはそれ以前からである。かつてのIMFは、財政規律の重要性をことさら強く訴える傾向が強かった。

ところが、ゲオルギエワ専務理事は、金融緩和、財政拡張策の効果については懐疑的で、他方、構造改革を重視する姿勢が明確である。かつてのIMFの姿勢に戻ったようにも思え、個人的には好ましく感じた。

次は普通の景気後退で済むのか

パネリストらに共通していたのは、景気循環(ビジネスサイクル)よりも経済の構造的な要因をより重視する姿勢だ。イノベーションなどに支えられ、潜在成長率といった世界経済の潜在力には変化がない、といった楽観論が多く聞かれた。さらに、循環的な景気後退に陥ること自体は大きな問題ではなく、それよりも世界経済の潜在力に変化があるかどうかが重要だ、というのがパネリストらのコンセンサスになっていたように感じられた。

確かに、景気後退をあまりに問題視すること、またそれに対して過度に積極的な政策対応を実施することは正しくない。景気後退は、景気回復時に累積された様々な歪み、例えば過剰な在庫、設備、雇用、また過剰な信用と債務、インフレ圧力の高まりなどを解消させ、次の成長を準備するための必要ないわば正常化プロセスとも言える。この点から、景気後退に陥るたびに、政府、日本銀行に対して積極的な景気対策を常に求める日本の世論には問題がある。

ゲオルギエワ専務理事は、世界経済が今後、仮に後退局面に陥るとしても、今は、リーマンショック(グローバル金融危機)前のような大きなリスクの累積はない、との発言をしていた。大きなリスクの累積とは、過剰なレバレッジのことだ。

しかし、この発言については、楽観的過ぎるのではないかと感じた。前回の景気後退前と比べても、異例の金融緩和措置が各国で長らく続けられ、超低金利環境はより長期化しているのである。これで、金融面での大きな歪みが小さく、普通の景気後退に終わると考えるのは、楽観的過ぎるだろう。次の景気後退も、金融面での問題を伴う大きな調整となりやすいのではないか。

その場合、効果が小さくても金融緩和、財政拡張策が各国で一段と進められ、構造改革優先というゲオルギエワ専務理事の主張は、残念ながら受け入れられなくなるのではないか。さらに、景気後退と並行して金融面での大きな調整が起きれば、通常の金融緩和、財政出動、また経済の潜在力を高めるための構造改革ではなく、特別な措置も考えなくてはならなくなる。

そうした際、ゲオルギエワ新専務理事には、各国の政策対応に対して明確な指針を示すことが求められるのではないか。

(注)https://twitter.com/hashtag/GlobalEcon

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