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フォワードガイダンス変更も日銀の政策姿勢は不変

2019/10/31

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市場の関心からずれたフォワードガイダンス

日本銀行は10月31日の金融政策決定会合で、政策金利を据え置くなど、大方の事前予想通りに金融政策の維持を決めた。他方、政策金利のフォワードガイダンス(政策方針)を変更し、政策金利引下げの可能性を改めて示唆した。全体としては、日本銀行の政策姿勢に変化がないことを示す、と評価できるだろう。

日本銀行は、過去2回の会合で追加緩和の可能性を強く示唆する言葉を対外公表文に示し、さらにそのトーンを加速的に強めてきた。その主な狙いは円高牽制にあったが、一段とトーンを強めることも限界に達していたとみられる。今回のフォワードガイダンス変更には、そうしたある種混乱した事態を収拾する意図があるのではないか。

日本銀行は2018年7月に「政策金利を当分の間、現在の極めて低い水準に維持する」とのフォワードガイダンスを導入し、今年4月には「少なくとも2020年春頃まで」と時期を明示した。しかし、このガイダンスは、将来の政策金利引き上げ時期に関するものである。景気減速、欧米での金融緩和実施を受けて、金融市場の関心は、政策金利引き上げなどの正常化の時期ではなく、目先の金融緩和の有無に移っていった。ここで、従来のフォワードガイダンスが市場の関心からずれ、その重要性を低下させてしまったのである。

市場の期待コントロールの行き詰まりを覆い隠す狙い

他方で、日本銀行は、追加緩和の可能性を強く示唆する言葉を、対外公表文に盛り込んでいった。これも一種のフォワードガイダンスである。その結果、同じ対外公表文の中に政策金利引き上げと政策金利引下げの2種類のフォワードガイダンスが混在する複雑な形となってしまった。この状態を解消することが、今回のフォワードガイダンス修正の目的だ。

日本銀行は今回、フォワードガイダンスを以下のように修正した。
「日本銀行は、政策金利については、『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。」

これは、混在していた2種類のフォワードガイダンスを統合し、整理し直したものであるが、力点は追加緩和の可能性を示唆する側に置かれている。これは、引き続き円高牽制を狙った措置と言えるだろう。ちなみにこのフォワードガイダンスの表現は、欧州中央銀行(ECB)に範をとったものである。

日本銀行は、追加緩和の可能性を強く示唆するメッセージを出して市場の期待をコントロールする戦略では、やや行き詰まっていた。強いメッセージを送りながら政策変更の見送りを繰り返す姿勢は、一部で「やるやる詐欺」とも揶揄されたのである。

しかし、単純に追加緩和の可能性を強く示唆するメッセージを同じトーンで示したのでは、追加緩和に向けた前傾姿勢が後退したと受け止められ、円高など市場の悪い反応を招きかねない。それを覆い隠すために、フォワードガイダンス変更というやや大掛かりな仕組みを打ち出したのではないか。

日本銀行の金融政策は物価動向では決まらない

また今回日本銀行は、「『物価安定の目標』に向けたモメンタムの評価」と題するレポートを示した。これにも、追加緩和に関する市場期待のコントロールにやや行き詰まったことを覆い隠す意図があるのではないか。

それに加えて、日本銀行が追加緩和決定の鍵とする「物価安定の目標に向けたモメンタム」とは一体どのようなものであり、どのような指標で測るのか分からない、といった外部からの多くの批判に応える狙いもあったはずだ。多くの措置を同時にパケージで示すことで、「やった感」を演出するのは、日本銀行の常とう手段である。

自身は、「物価安定の目標」に向けたモメンタムの評価、あるいは物価動向などで政策が決まることはなく、それと関係はするものの、円高進行、景気悪化が直接的な追加緩和実施の引き金になると考える。

このように、今回の金融政策決定会合では、金融緩和の実施を見送る一方、やや大掛かりな仕組みが演出された。しかし、実態としては日本銀行の政策姿勢には全く変化がない、と評価できる。現在の経済、金融情勢が続くのであれば、12月の次回決定会合でも金融緩和は見送られるだろう。

日本銀行は、基本的には追加緩和を実施したくないと考えていると思われる。ドル円レートが108円台と、クリティカルと考えられる100円までに相応の距離があり、また米連邦準備制度理事会(FRB)が様子見姿勢に転じ、その分、円高リスクが後退するなか、日本銀行は追加緩和手段をまだ十分に温存できる状況にある。

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