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最終合意直前で足踏みするRCEP

2019/11/05

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世界のGDPの3割をカバーする巨大経済圏へ

日中韓やインド、ASEAN(東南アジア諸国連合)など16か国が参加する自由貿易圏構想「RCEP(東アジア地域包括的経済連携)」で、各国は目標としてきた年内の妥結を断念し、最終的な妥結は来年2月の閣僚会議にずれ込む見通しとなった。

関税の削減・撤廃や貿易ルールなどを合わせた約20分野のうち、既に9割以上で合意に達しているとされる。年内に最終合意に至らなかったのは、インドと他国との間の調整が進んでいないためだ。輸入品の急増が自国産業への打撃になることを懸念するインドは、関税の撤廃や削減に難色を示している。特に輸入量が急増した時のセーフガード措置の導入方法を巡って、他国との間で意見の相違がある模様だ。

インドは、現状の協定には参加できないとしており、中国が主張する15か国による先行合意となる可能性が高まっている。それでも、長年にわたる議論を経て、RCEPが最終合意に近づいていることは間違いない。

RCEPは、東アジア全域をほぼカバーする自由貿易協定(FTA)である。ASEAN10か国と日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの計16か国が締結を目指してきた。TPP11(環太平洋パートナーズシップ)に参加している国のうち、7か国がこのRCEP交渉に参加している。

RCEPは、2011年にASEANが正式に提唱した。その後、16か国による議論を経て、2012年のASEAN関連首脳会合において正式に交渉が始められた。TPP11が高水準の自由貿易協定を達成したのに対して、RCEPは東アジア地域の広範囲な国の参加に、より重点が置かれていると言えるだろう。

インドを含むRCEPが実現すれば、人口は約34億人で世界の約半分、GDPは約20兆ドルで世界全体の約3割、貿易総額は10兆ドルで世界全体の約3割を占める広域経済圏が出現することになる。これは、総人口は約5億人、GDPは約10兆ドルで世界の13%程度であるTPP11と比べて、かなり大きなものだ。

米中を既存の自由貿易体制に繋ぎとめる役割

日本経済にとってのプラスの経済効果についても、RCEPはTPP11を上回るとみられる。日本国際問題研究所の分析によると、100 パーセントの関税撤廃と 50 パーセントの非関税措置削減を前提とした場合、TPP11は日本のGDPを1.8%押し上げるのに対して、RCEPは2.9%押し上げる(インドを含む場合)と試算される。

現在の世界貿易は、米中間での対立によって大きな打撃を受けている。また、米国の自国第一主義によって、第2次世界大戦後の自由貿易体制が大きく揺らいでいるのが現状だ。

中国は、RCEPを通じて東アジア地域での中国の経済力を一段と高めることを狙うだろう。他方、中国を含む巨大経済圏が東アジアに出現することは、米国政府を刺激し、米中貿易交渉に悪影響を与える可能性もある。

一方、TPP11とRCEPの双方に参加しない米国は、東アジア地域での貿易で、競争条件上、一段と不利な状態に置かれる。それがいずれ、米国をTPP11あるいはより広範囲なアジア・太平洋地域の自由貿易協定に参加することを促す可能性も考えられるだろう。そうなれば、世界の自由貿易体制は再び安定を回復する。

他方、中国がRCEPに参加することは、米国から攻撃される中国が独自の経済圏の確立を目指し、また独自の貿易ルールの構築を目指す、という流れを食い止めることに寄与するのではないか。

このように、RCEPスタートをきっかけに、米国と中国の両国を既存の自由貿易体制に繋ぎ止めるという重要な役割を、日本は担うことになると言えるのではないか。

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