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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

米中部分合意も対立解消は遠い

2019/11/07

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部分合意の署名場所はどこか

米中貿易協議は、部分合意(第1段階の合意)にかなり近づいた状態にある。両国間の根深い対立が解消することは、少なくとも近い将来には考えにくいが、追加関税の引き上げ合戦を繰り返していた一時期と比べれば、事態は明らかに改善しており、世界経済及び金融市場にとってのリスクも短期的には低下していることは疑いがない。

両国を部分合意に向かわせた最大の理由は、来年の米大統領選挙がトランプ政権の視野に入ってきたことである。現在、合意に向けた両国間での最大の争点となっているのが、両首脳が部分合意を署名する場所であることが、それを端的に示している。

部分合意の署名は当初、11月中旬にチリで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で行われる見通しだった。しかし、チリが首脳会議の開催を断念したことから、署名場所が宙に浮いてしまった。

米国政府は米国での署名を望んでおり、トランプ大統領はアイオワ州を候補としているという。アイオワ州は農業が盛んな場所であり、中国による報復関税により農家が打撃を受けている場所だ。ここで、中国からの農産物の輸入拡大を含む部分合意が成立すれば、トランプ大統領にとっては選挙で農家にその政治成果をアピールできる。

ただし、ロイター通信によると、12月3、4日にNATO(北太平洋条約機構)首脳会合が開かれるロンドンが新たな候補地に挙がっているという。ロンドンでなくても欧州の都市が有力になってきたという。

米中貿易協議の部分合意は、トランプ大統領にとっては重要な選挙対策の一つだ。日米貿易協議においても、重要な自動車分野を棚上げして、日本の農産物関税率引き下げを柱とする部分合意となったのも、全く同じ構図である。

追加関税率が引き下げられるかに注目

米中の部分合意では、①中国が米国農産物の輸入を拡大すること、②中国が通貨安のための為替操作をしないこと、③中国が金融分野などで市場開放を一段と進めること、④中国が知的財産権保護に取り組むこと、の4つが柱となるだろう。

署名場所以外で、両国間の大きな争点となっているのが、米国による追加関税の扱いだ。中国政府は、中国側が譲歩して合意する以上、米国側は追加関税を撤廃すべき、というのが基本的な主張だ。部分合意に向けた協議が進んだことで、トランプ政権は10月に予定されていた、追加関税第3弾の関税率を25%から30%に引き上げる措置の実施を見合わせた。他方、12月15日には9月に実施された追加関税第4弾の一部(1,100億ドル)の残り部分(スマートフォンなど1,600億ドル)に、15%の追加関税が適用される見通しである。しかし、米中間の部分合意が12月15日までに成立する場合には、この追加関税の適用は見送られる可能性が高そうだ。

他方、フィナンシャルタイムズ紙は、9月に実施された追加関税第4弾の一部(1,100億ドル)の15%の関税率を引き下げることをトランプ政権は検討している、と報じている。仮にこれが実現されれば、トランプ政権は相当譲歩することになるが、その背景には、米国内の小売店、衣料業界などからの、追加関税に対する強い不満があり、この措置も選挙対策の一環である。

「国家資本主義」の修正では譲れない

トランプ政権にとって米中協議の最大の狙いは、中国の「国家資本主義」の変革だ。国有企業、巨額の産業補助金などに代表される中国の「国家資本主義」は、米国の経済、産業、技術、安全保障上の優位を揺るがせかねない脅威、と考えられている。しかし、「国家資本主義」の変革は政治体制の変革にもつながり、指導者層がその地位を失うきっかけとなる可能性もあることから、中国政府としては、それは決して受け入れられない。

トランプ政権が全面的な米中協議の合意を断念し、部分合意を選んだのは、「国家資本主義」の修正を巡る中国政府の抵抗が非常に強いことを、協議を通じて理解したからに他ならない。

中国政府は、大統領選挙でのトランプ大統領の敗北を期待して、今後は貿易協議でさらなる譲歩を見合わせ、時間稼ぎをするだろう。他方、トランプ大統領にとっても、再び中国との対立を強めて、部分合意の成果を台無しにすることは避けるだろう。その結果、大統領選挙までは、米中間で第2段階の合意に向けた協議は進まずに、一時停戦状態となる可能性も考えられるところだ。

しかし、米国議会には党派を超えて強い反中論があり、仮に民主党政権が成立しても、対中融和政策に転じるとは考えにくい。この点でトランプ政権は、対中政策で「パンドラの箱」を開けてしまったのではないか。

イデオロギーの対立ではなく、「国家資本主義」と「市場主義」との間の経済システムの優劣を競う米中の覇権争いには、終わりは見えない。

執筆者情報

木内 登英

エグゼクティブ・エコノミスト

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