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EUがリブラへの対抗で法定デジタル通貨を提言

2019/11/08

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欧州ではリブラ禁止を検討も

欧州連合(EU)が、欧州中央銀行(ECB)や他の欧州の中銀に対して、法定デジタル通貨の創設を検討するよう提言したことが、ロイター通信が入手した草案文書で5日に明らかになった。

この草案文書は、現在EU議長国であるフィンランドがまとめたものだ。EU財務相理事会が11月8日の会合でその内容を議論し、12月にも採択される可能性がある。同文書は、「具体的な手段や課題などを有効的に検証することができる」とし、民間デジタル通貨の問題点を解決できる法定デジタル通貨創設のメリットを強調している。他方で、仮想通貨に対するEU共通の対応策の策定も呼びかけている。その対応策の中には、「リスクが高過ぎると判断されたプロジェクトの禁止」も含まれている。

この提言が、新デジタル通貨リブラを狙ったものであることは明らかだ。マネーロンダリングなど犯罪に利用されること、民間金融機関に与える打撃、金融政策を含めた中央銀行の業務全般に与える悪影響など、民間デジタル通貨によって生じうる諸問題を克服するために、中央銀行が自らデジタル通貨を発行することで、民間デジタル通貨の利用の広がりを抑える狙いがある。さらに、リブラ計画の禁止も視野に入れている。

日本が議長国を務めるG7(先進7か国財務相・中央銀行総裁会議)、G20(20か国・地域財務相・中央銀行総裁会議)は、リブラ計画への規制の必要性を強く訴えるとともに、規制の体制が整うまではリブラの発行を認めるべきではない、としている。

他方、この草案文書は、EUは新たな法定デジタル通貨を発行することで、EU内ではリブラの利用を抑えるととともに、必要であればEU内でリブラを禁じることも想定している。警戒心だけをアピールするG7、G20と比べて、より踏み込んだ、具体的な対応策が示された、と言えるだろう。

中銀デジタル通貨創設がリブラ対応の主流となるか

中国政府は先日、リブラなどグローバル・デジタル通貨を法的に外貨と位置付けることで、国内での使用を禁じた。さらに、デジタル人民元と称される中銀デジタル通貨の発行を近いうちに実現しようとしている。EUが提言しているのは、中国におけるリブラへの対抗策と共通しており、これが世界のリブラ対策の主流となっていく可能性もあるだろう。

しかし、ユーロ圏以外の国々がEUデジタル通貨構想に参加する場合には、それは事実上のデジタル・ユーロとなることから、通貨主権の観点から問題も生じるだろう。EU法定デジタル通貨が創設されても、域外との間の国際間決済では、グローバル通貨のリブラには対抗できない、という問題も残る。

また、リブラ計画が主に想定しているのは、新興国での利用拡大であることから、仮にEUでリブラが禁止されても、計画にとって致命的な打撃とはならないのではないか。さらに、中銀デジタル通貨の発行によって民間デジタル通貨の利用を抑えることは、まさに民業圧迫であり、民間のイノベーションの発展を阻害する、という問題点も残るだろう。

いずれにせよ、中銀デジタル通貨に慎重な姿勢を続けてきたECBが、一気に法定デジタル通貨構想を支持するとは考えにくいところだ。EUでの当面のリブラ対策としては、規制体系の整備、リブラ禁止、法定デジタル通貨創設の3つの選択肢を並行して比較することになるだろう。

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