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10年振りに景気後退に陥った香港

2019/11/19

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反政府デモの影響で消費とサービス輸出が悪化

逃亡犯条例改正をきっかけに始まった反政府デモが長期化あるいは激化するなか、香港はいよいよ景気後退に陥った。11月18日に発表された第3四半期のGDP改定値は季節調整済み前期比で3.2%減と、速報値と同水準で大幅マイナスとなった。長引く抗議デモや米中貿易戦争の影響などから、前期に続いて2四半期連続のマイナス成長を記録し、10年ぶりにリセッション(景気後退)に陥ったのである。

香港政府は15日に、2019年の香港の実質GDP成長率が-1.3%になるとの見通しを示している。香港政府は当初、2019年の成長率を「2~3%増」のプラス成長と予想していた。8月にはこれを「0~1%増」へと下方修正し、今回再び引き下げた。実際に年間でマイナス成長となれば、グローバル金融危機後の2009年以来10年振りとなる。このグローバル金融危機後や、重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した2003年よりも深刻で、期間も長い不況に陥る可能性を指摘する向きも出てきている。

第3四半期のGDP統計では、GDPの68%を占める個人消費と31%を占めるサービス輸出の落ち込みが際立った。これは、反政府デモによる中国からの旅行客の減少、商店の営業時間の短縮などが、小売業と観光業に大きな打撃を与えた結果と言えるだろう。

9月のインバウンド旅行客は前年同月比34.2%減に落ち込み、3か月連続で前年比マイナスとなった。また香港住民の消費マインドも低迷し、香港の個人消費は7~9月期に前年同期比3.4%減と10年以上ぶりにマイナス成長に陥っている。

こうしたなか、経済情勢の悪化を受けて、香港政府は富裕層向けの減税措置の実施を検討している。これは、香港からの資金流出防止を狙っている面もある。また先月には、ローン規制緩和による不動産販売促進策がとられた。しかし、その効果は反政府デモの影響によって打ち消され、15の住宅団地における先週末の住宅取引件数は前年比78%もの減少となっている。

ドルペッグ制度のもと金融緩和策を実施できない

他方、ドルペッグ制度(あるいはカレンシーボード制)を採用する香港は、金融政策を米国の金融政策に連動させることが求められ、独自の金融政策による景気刺激措置は採用できない。米国の金融緩和が一巡し、当面は様子見姿勢となるなか、深刻な景気後退に陥った香港では追加の金融緩和策が実施できず、ドルペッグ制度の弊害が意識されている。これは、ドルペッグ制度の見直し観測につながる可能性があるだろう。

香港金融管理局(HKMA)の余偉文長官は立法会で、「香港ドルは安定しており、(米ドルに)連動する制度を変更する必要はない」とし、市民に安心するように呼び掛けている。また「香港は資本・外為規制を実施しない」と述べ、第3四半期に香港銀行システムから顕著な資金流出は起こっていないと説明している。

確かに、香港ドルの水準は足もとで安定が維持されている。香港では2005年に1米ドル=7.75~7.85香港ドルの取引バンドが導入された。足元は下限に近い安値圏で取引されており、8月以降は7.8香港ドル台で推移している。

しかし、8月頃から資金流出は起こっているとの指摘があり、為替の安定は当局の為替介入によってなんとか支えられている可能性もあるだろう。実際、8月には外貨準備額は顕著に減少した。

ドルペッグ制度のもとで、香港当局は、国内通貨流通額を上回る外貨準備額を維持することが求められるが、現状では外貨準備額は通貨流通量の約7倍あることから、直ぐにドルペッグ制度が行き詰まる訳ではない。

しかし、反政府デモがさらに長期化し、香港で深刻な景気後退が続く場合、景気刺策としての通貨切り下げや独自の金融緩和策を実施するために、ドルペッグ制度を修正するとの観測が燻り続けるだろう。また、海外への資金流出を回避するために、資本・外為規制を実施するとの観測も浮上しよう。

こうした観測だけでも、海外からの資金流入を妨げることで香港の金融市場の安定を損ねるとともに、金融センターとしての香港のレピュテーションを大きく傷つけてしまう可能性もあるだろう。

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