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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

香港人権法案可決は米中部分合意成立を妨げるか

2019/11/21

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米中貿易協議に事実上人権問題が加わる

米国上院は19日に、「香港人権・民主主義法案」を全会一致で可決した。10月には既に同様の法案が下院で可決されている。さらに20日には下院が上院案をほぼ全会一致で賛成し、法案が一本化された。その後、同法案はトランプ大統領に送付された。トランプ大統領が署名をすれば、法案は成立する。

この香港人権法案は、中国が香港の高度な自治を認めた「一国二制度」を守っているかどうかの検証を、米政府に毎年求めるものだ。米国は香港の一国二制度を前提に、ビザの発給や関税などで、香港を中国本土よりも優遇している。同法案は、一国二制度の履行状況を踏まえた上で、この優遇措置を継続するかどうか毎年検討するよう国務省に求める。中国は貿易面でこの香港での優遇措置の恩恵を受けていることから、その見直しをちらつかせることで中国側をけん制する狙いがある。

このタイミングで同法案が可決した背景には、香港で長引く民主化デモと当局との間の激しい対立がある。民主化デモの指導者らは、国際世論を味方につける戦略をとっており、米議会に対してもデモへの支持を呼び掛けている。同法案は、それに米議会が応えた動きの側面もある。

他方、この香港人権法案の議論は、現在進められている米中貿易部分合意(第1段階合意)に向けた両国間での議論に、大きな影響を与えることになる。事実上、貿易協議に人権問題が加わる形となってきた。

ペンス副大統領は19日の米メディアとのインタビューで、「香港で何らかの暴力が行われたり、この問題が適切かつ人道的に対処されなかったりした場合、我々が中国と取引するのは極めて難しくなるとトランプ大統領は明確にしている」と発言している。

米中貿易協議決裂の懸念も

香港人権法案は、上下両院ともに全会一致で可決されていることから、トランプ大統領が同法案に署名せず拒否権を発動する場合でも、議会はそれを覆して成立させることができるだろう。

現状では、トランプ大統領は同法案に対する態度を明らかにしていない。また、マコネル共和党上院院内総務は、香港のデモ参加者への支持を表明するようにトランプ大統領に呼び掛けているが、トランプ大統領はそれにも応えていない。

中国との貿易協議の部分合意を成立させ、農産物の対中輸出拡大を大きな政治成果として有権者に打ち出したいトランプ大統領にとって、香港人権法案は中国を刺激し、部分合意を危うくする厄介な存在となっているだろう。中国は同法案が成立すれば対抗措置を打ち出す考えを示しており、そうなれば、部分合意が難しくなる可能性もある。

同法案の成立は避けられない情勢だが、トランプ大統領は拒否権を発動することで中国政府に対して配慮を示し、部分合意の実現を狙う戦略をとるかもしれない。ただしその場合には、米国内で強い批判を浴び、選挙戦略に逆に悪影響を与えてしまう可能性もある。トランプ大統領は、大統領選挙への影響を見据えて、慎重に最終的な判断を下すだろう。現状では、トランプ大統領は同法案に署名をするとの見方が多い。

米中の部分合意成立は、世界経済の下方リスクを低下させるものであり、金融市場は部分合意成立への期待から楽観をかなり高めてきた。引き続き、部分合意成立の確率は相応にあるものと考えておきたいが、香港情勢の悪化と香港人権法案可決によって、先行きに暗雲が出てきたことは確かだ。

金融市場は、今年5月に米中貿易協議が合意直前で決裂し、追加関税の掛け合いという状況に再び戻ってしまった悪夢を、再び思い起こしている。

執筆者情報

木内 登英

エグゼクティブ・エコノミスト

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