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数字を作っても実態は変わらない国債発行

2019/12/19

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政府は新規国債発行額の削減に奔走

新たに国の借金となる新規国債の発行額は、2020年度予算で10年連続の減少となる見込みだという。一般会計総額が前年度当初予算から1.2兆円程度増加する一方、税率引き上げの増収効果がある消費税を除けば、税収が全体として低迷する中で、新規国債の発行額が減少するというのも違和感がある。報道によると、2020年度の新規国債発行額は32.56兆円と2019年度当初予算からわずか千億程度少ないというが、これは、財政健全化の姿勢を維持することをアピールするために、いかにも数字を作ったという感が強い。

新規国債発行額を減少させるからくりは、高い税収見積もりと税外収入等の活用にあるだろう。2020年度の税収見通しは63兆5,100億円で、2019年度当初予算の62兆4,950億円を約1兆円上回る。増加率は+1.6%で特に違和感はない。ところが、先般の補正予算案で、2019年度の税収見積もりは60兆5,100億円へと実に2.3兆円も減額されている。この補正後の2019年度税収見積もりと比較すると、2020年度税収見積もりはちょうど3兆円、約5%の増加となる。消費税率引き上げによる増収効果と景気回復の前提を織り込んでも、この税収見通しはかなり楽観的ではないか。

さらに、新規国債発行額を減少させるために、税外収入がかき集められる。その詳細は明らかでないが、税外収入には返納金、貨幣交換差増、価格協定等違反者納付金、日本銀行納付金、特殊薬品売払代、土地売払代などの項目がある。ちなみに2019年度当初予算でも、税外収入を大幅に積み増して新規国債発行の抑制が図られたが、その際には、金融破綻に備える預金保険機構の利益剰余金などが活用された。その増収効果は一時的なものである。

税収と税外収入だけでも国債発行を減らすには十分でないため、他の財源もかき集められる。それが、2018年度の剰余金のうち、2019年度補正予算案で使う8千億円を除く分を、特例法案により2020年度当初予算案の財源にあてるというものだ。さらに政府は、外国為替資金特別会計からの繰入金も拡大する方針だ。

チェック機能が甘い補正予算

ここまでして新規国債発行額を当初予算ベースで削減することにこだわるのであれば、その分歳出を絞り込めば良いように思うが、政府は経済対策も含めて歳出増加は維持したい一方、表面的には財政健全化の姿勢を維持するために、このような無理な数字の調整が行われる。

他方、当初予算段階で新規国債発行額を削減すればよい、という姿勢も大いに問題ではないか。2019年度補正予算案では、経済対策と税収見積もりの大幅下振れを背景に、新規国債発行額を一気に4.4兆円分も、ある意味簡単に大幅増額している(うち建設国債2.2兆円、赤字国債2.2兆円)。

ここには、補正予算あるいは決算は、当初予算ほどには厳しくチェックされないという事情がある。それが、当初予算で数字さえ作り上げれば良い、といった政府の姿勢を許してしまっている。国民は、補正予算あるいは決算にもより厳しく目を光らせることが必要だろう。

赤字国債と建設国債との違いは本質的でない

予算編成、国債発行で政府が強いこだわりを見せる3つめが、赤字国債(特例国債)の抑制だ。将来世代もその便益を得る道路、橋などの公共インフラについては、将来世代にも負担を転嫁するために、建設国債で資金を調達するのが公正である一方、単純な赤字の穴埋めの財源となる赤字国債(特例国債)の発行は、将来世代へのつけ回しであり、できるだけ抑制するのが良い、という一般的な理解がある。

そこで政府も、国債発行はできる限り建設国債で、という発想になりがちだ。その結果、先般決定された経済対策でも、インフラ投資に偏った構成となりやすいのではないか。

しかし、将来世代が必ずしも必要としないような、いわば無駄なインフラ整備を建設国債で賄って実施すれば、将来世代に不当な負担を強いることになってしまう。この点から、赤字国債と建設国債の区別は実際には曖昧なのであり、便宜的な側面が小さくない。

他方で、既に見たように、2019年度の補正予算案では、赤字国債の2.2兆円の発行増額が決められた。赤字国債の発行増額も、補正段階であればあまり問題視されないのである。

このように政府は、その予算編成、国債発行計画で3つの強いこだわりを見せている。しかしそのようにして数字を作り上げても、財政環境の実態に違いが生じる訳ではない。むしろそうした数字の操作が、政府の財政政策運営に関する国民の信認を低下させている面も少なくないのではないか。

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