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浮上する脱マイナス金利政策の観測

2019/12/20

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10年国債利回りはマイナスを脱する

12月20日の日本の国債市場では、10年国債利回りがプラスの領域にまで上昇した。これは、今年3月以来のことである。以前当コラムにも書いた(「10年国債利回り0%は日銀に朗報」、2019年12月10日)が、10年国債利回りがマイナスを脱した結果、日本銀行はイールドカーブコントロールという枠組みの信頼感をある程度取り戻すことができた。それに加えて、利回り上昇は、日本銀行ができれば避けたいと考えている追加緩和の実施を強いられるリスクが、低下していることを意味する。この2つの意味で、10年国債利回りがマイナスを脱したことは、日本銀行にとって非常に朗報である。

ところで、20日の債券市場で利回り上昇の原動力となったのは、海外要因によるところが大きい。19日にスウェーデン中央銀行リクスバンクは、政策金利(レポ金利)を現在のマイナス0.25%から0%へと引き上げると発表した。これは経済環境の改善を受けた措置というよりも、マイナス金利の長期化が生む家計の債務膨張など金融面での歪みを抑えるための措置だろう。家計債務の増加は金融システムの安定を損ねるリスクをはらむ。物価の安定と、金融システムの安定という、中央銀行の2つの使命のバランスに配慮した上での決断だった。

マイナス金利政策を再評価するきっかけに

以前よりリクスバンクは、経済の悪化や通貨高リスクと、資産価格上昇やそれによる金融システム不安定化のリスクとの間で板挟みとなり、苦しい政策決定を強いられる局面が多かった。今回は、金融システムの安定により重きを置いたもので、英断をしたと言えるだろう。

リクスバンクのマイナス金利政策解除の決定を受けて、世界の国債利回りは上昇した。それは、他の欧州諸国・地域や日本で採用されているマイナス金利政策も、いずれは修正されるとの期待が生じたからだろう。

欧州中央銀行(ECB)や日本銀行が、リクスバンクに続いて直ぐにマイナス金利政策を解除することは考えにくい。しかし、今回のリクスバンクの決定は、他国でもマイナス金利政策を再評価するきっかけとなるだろう。そして、それが将来のマイナス金利政策の見直しにつながる可能性もある。

この点に照らせば、世界の債券市場で国債利回りが上昇したことは、正しい方向の反応だと言える。

金融市場はマイナス金利政策の修正を評価か

「将来、各国でマイナス金利政策の解除が進むことは実体経済に打撃を与える」との懸念が浮上していれば、19日あるいは20日の金融市場では株価が下落し、国債利回りは上昇しなかったはずだ。この点から、脱マイナス金利政策観測で国債利回りが上昇したことは、マイナス金利政策の見直しは、銀行の収益回復を通じて金融システムの安定に貢献し、実体経済にもプラスの効果をもたらす、と市場が考えていると言えるのではないか。

ECBの中でも、タカ派である中核国のメンバーを中心に、マイナス金利政策の問題点を指摘する声が増えてきた。19日には、ECBのスタッフが、政策金利は既にかなりのマイナス圏にあるが、まだ経済に副作用をもたらさずに相当深掘りできる余地がある、との論文を発表している。これは、ECBがマイナス金利政策を修正するとの観測を一気に広がることを懸念し、それを抑える意図があったのかもしれない。

2021年にはマイナス金利政策修正の可能性も

19日の日本銀行総裁の記者会見では、金融緩和が金融機関にもたらす影響についてかなり長く説明されていた。やはり、マイナス金利政策が金融機関の収益、金融仲介機能に与える悪影響については、日本銀行も相応に警戒しているのではないか。

現在の経済、金融環境に大きな変化がなければ、2020年は米連邦準備制度理事会(FRB)、ECB、日本銀行ともに金融政策を変更しない可能性が高いと思われる。しかし、2021年には、良好な経済・金融環境の下で、各国・地域で金融引き締め策、金融政策の正常化策が始められる可能性も展望できるだろう。

日本では、政府が2020年の東京五輪後に国内経済が悪化する可能性を警戒しているため、日本銀行はその点が確認できるまでは正常化には動けない。

それが確認できる2021年春頃から、正常化の意図を市場に徐々に伝える「地均し」を始め、2021年後半に政策金利を-0.1%から+0.1%に引き上げる正常化策を実施することも展望できるのではないか。

その時点でもなお、物価上昇率は目標の2%を大幅に下回っているであろうが、それはもはや正常化策実施の障害とはならないだろう。リスクバンクと同様に、物価の安定よりも金融システムの安定という使命により重きを置いた決定に日本銀行も傾くからである。

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