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BOEで音声データの不正漏えい事件

2019/12/23

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BOEの音声データでHFT業者が取引

英国中央銀行(BOE)は12月18日、総裁などの記者会見の音声データを高速取引(HFT)業者がBOEの委託業者を通じて不正に入手し、金融商品の取引に利用していたことを明らかにした。

BOEは、他の主要中央銀行と同様に、金融政策など重要政策の公表後にカーニー総裁らの記者会見を開いている。その会見はホームページ上でもインターネット動画でライブ配信されているが、委託業者を通じて外部にも配信される。その委託業者が、BOEの許可を得ずに今年初めから不正に音声データを外部に流していたのである。

BOEによると、この音声データは、動画配信に不具合が生じた際に備えたバックアップ用であり、通常は外部に配信されない。

HFT業者がこの音声データを取引に利用したのは、動画配信と比べて、音声データの方が最大10秒早く伝送でき、より早く会見内容を把握できたためだ。動画配信を見て取引をする他の投資家に先んじて取引を行うことで、利益を得ることができたと見られる。

映像を取り込む際には、カメラによって取り込まれた光をデータとして配信可能な形に変換し、動画ファイルの形式に圧縮する処理が行われる。この処理全体で、一般的には0.75ミリ秒かかると言われている。音声取り込みの場合は、音の波を音の信号に変換し、音声ファイル形式に圧縮する。この処理が、画像よりも早く行えるのだろう。このようなプロセスを何段階も経る中で、配信までの伝達時間差が累積していき、音声データの方がかなり早く伝送できるようになる。

他の中央銀行も調査を開始

BOEでの問題発覚を受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)でも調査を開始した。FRBは本部内で行われる記者会見では、2つの動画を同時に配信する一方、音声データのバックアップはとっておらず、BOEと同様の問題は生じない。しかし、本部以外の場所で行われる記者会見については、同様の問題が生じるリスクを排除できないようだ。

欧州中央銀行(ECB)は、理事会の声明文などが一部のメディアなどに早く読まれることのなうように厳しく取り締まっているという。しかし、記者会見の音声データについては、9月から外部から自由に入手できるようにしている。

ちなみに、記者会見を外部の情報会社が自ら直接外部に配信する場合に、動画よりも早い音声データを配信すること自体に問題はない。日本銀行の場合には、仮に音声データが配信されていたとしても、この例に当たるのではないか。

他方でBOEの委託業者は、それを不正にBOEから入手し、許可なく配信したことが問題なのである。

専門家によれば、今回のBOEの事件に関して、今後明らかになる事実によっては、法的過失が音声データを悪用した業者から英中銀にまで及ぶ可能性があるという。この事件は、世界の中央銀行にとって、リスク管理上大きな問題となっており、情報管理の厳格さが改めて問われる事態となった。

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