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FRBのパウエル議長の記者会見-インフレ目標

2020/01/30

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はじめに

FRBは、今回(1月)のFOMCで、事前の予想通りに金融政策の現状維持を決定した。もっとも、パウエル議長の記者会見中には長期金利が低下するなど興味深い反応もみられた。その理由を考えつつ、いつものように内容を検討したい。

経済情勢の判断

今回(1月)の声明文やパウエル議長の冒頭説明は、米国経済が前回(12月)の見通しに沿って推移しているとの判断を確認した。

このうち家計支出は、声明文が拡大ペースについて「力強い(strong)」から「緩やか(moderate)」へ修正したが、パウエル議長は引続き堅調との評価を確認した。また、声明文は輸出や設備投資が弱いとの判断を維持したが、パウエル議長は貿易摩擦に関する不透明性の低下や海外経済の安定化の兆しを確認した。

質疑応答では新型肺炎の経済面での影響に関する質問も示されたが、パウエル議長は現時点で不透明性が高いとしつつも、重大な事態として状況を注視しており、少なくとも中国や中国と関係の深い貿易相手国には短期的な影響が生ずるとの見方を示した。

ただし、長い目で見れば、世界経済は貿易摩擦に関する不透明性の低下やITサイクルの改善、主要国の政策対応によって「cautiously optimistic」な見通しが可能な状況にあるとし、米国経済は内需のウエイトが高く、しかも堅調であると指摘するなど、冷静な見方を示唆した。

物価情勢の判断

物価に関しても、今回(1月)の声明文は、コアインフレ率が2%以下で推移し、インフレ期待には変化がないという評価を維持した。

もっとも記者会見では、声明文の第2パラグラフでのインフレ率の評価に関して、前回(12月)の「対照的な目標である2%近傍にあり」を、今回(1月)は「対照的な目標である2%に接近していく」と修正したことの趣旨が取り上げられた。

パウエル議長は、前回(12月)のFOMCにおいて、2%以下のインフレ率で満足しているとの誤解を与えるリスクが指摘されたと説明し、そうした議論を反映した修正であると述べた。また、冒頭説明でも、インフレ率が目標を下回る事態が続くと、インフレ期待が低下し、ELBに直面するリスクが拡大するため、その回避が重要との理解を強調した。

なお、一部の記者からは足元で賃金上昇に鈍化の兆しがあるとの指摘がなされたが、パウエル議長はそうした見方を否定した上で、長い目で見て賃金上昇が緩やかであることは事実であるとし、実際の構造失業率が推計値より低かった可能性や、労働参加率の回復が継続していることを理由として指摘した。

政策判断

今回(1月)のFOMCは、金融政策の現状維持を決定しただけでなく、パウエルl議長は政策金利を当面は現状維持とすることの適切さを示唆した。

その上で、記者会見での焦点は、FRBが行っている金融政策の見直しのうち、特にインフレ目標の扱いであった。上記のようにFOMCがインフレ期待のアンカーに特に注意を向けていることを考えると当然の展開であり、実際、ある記者は、現在の政策運営が既に平均インフレ目標のような“make-up“戦略に即したものになっているのではないかと指摘した。

パウエル議長は、FOMCとして意見の取りまとめを行っている段階にある点を確認した上で、今回の見直しが、金融政策を取り巻く環境変化、つまり低インフレの定着やフィリップカーブのフラット化、政策金利のELBへの接近といった「new normal」をどう取り込むかという問題意識に動機付けられている点を説明した。

また、別の記者が平均インフレ率目標を導入した場合の具体的な影響を質したのに対し、パウエル議長は、現在の枠組みの下では米国経済が見通しに沿って推移する限り、現在の政策金利が適切との見方を確認した上で、枠組み自体に変更があれば、政策金利もそれに即して見直すことになるとの考えを示した。

記者会見では、低金利の継続が家計貯蓄にマイナスの影響を与えているとの指摘もあったが、パウエル議長は、FRBはデュアルマンデートの達成を目指して政策を運営しており、金融危機後の金融緩和によって顕著な雇用の回復を実現したと指摘した。加えて、低金利によって、住宅や金融資産の価値も上昇したとし、家計に対しても全体として大きな恩恵が生じたことを強調した。

さらに別の記者は、低金利の継続が資産価格の高騰を招いているとの懸念を示したが、パウエル議長は、金融システム全体を見た場合に、非金融部門のレバレッジは高いがシステミックな問題ではなく、資産価格も安全資産に対するプレミアムは長期変動の範囲内にあると反論した。

レポ金利問題への対応

今回も数名の記者が引続きこの問題を取り上げた。

原因に関して金融規制の影響を示唆する質問があったのに対し、パウエル議長は可能性を認めた上で、調査結果を今後公表する方針を示した。また、大量の資金供給が株価を下支えしているとの指摘に対しては、パウエル議長は、量的緩和とは異なる点を確認するとともに、株価は様々な材料で動くと説明した。

その上でパウエル議長は、冒頭説明を含め、FRBによるこの間の対応が、レポ市場金利のボラティリティを抑制し、金融政策の効果の波及を円滑化したと評価した。また、TB買入れを第2四半期まで継続するのに加え、レポオペも4月まで継続する点を説明した。なお、standing facilityについては、便益とコストを比較考量しているとしつつ、導入が喫緊の課題ではないとの考えを示した。

加えてパウエル議長は、これまでの資金供給の結果、潤沢な資金(ample reserve)の状況が達成されつつあるとして、レポオペの必要性は徐々に低下するとの見方を示した。記者からはample reserveの規模に関する質問が示されたが、パウエル議長は、レポ金利の高騰以前の推計が過小評価であった点を認めた上で、超過準備で見て1.5兆ドルが下限であり、それを下回らないよう運営する方針を示唆した。

さらにパウエル議長は、連邦政府による今後の税揚げを考慮しても、第2四半期にはample reserveが達成されるとし、その後のFRBの資産規模の拡大ペースは、銀行券の伸びに即して緩やかになるとの見方を示した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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