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FRBの1月FOMCのMinutes-various ranges

2020/02/20

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はじめに

金融政策の現状維持を決定した1月FOMCでは、新型肺炎の影響がまだ考慮されなかったこともあり、景気見通しの堅調さを示す議論が目立った。一方、金融政策の見直しでは、金融システム安定との関係とインフレ目標のレンジ化が取り上げられた。

景気と物価の判断

FOMCメンバーは、家計支出について、足許で拡大ペースがやや鈍化したが、雇用と所得の拡大や健全なバランスシート等の良好なファンダメンタルズに支えられて堅調さを維持するとの見方を示した。また、年末商戦の好調さや、金利低下による住宅投資の力強い拡大も指摘された。

一方、企業活動については、輸出と設備投資が引続き弱く、製造業の生産が軟化した点を認めつつも、貿易摩擦の改善と海外経済の安定化による好影響について、cautiously optimisticな見方で概ね(generally)一致した。もっとも、米中間での合意の効果に関しては、数名(several)のメンバーが、大半の関税が維持されることも含めて、効果は限定的と指摘した。

雇用についても、地区連銀のメンバーが人手確保の困難さを指摘したほか、BLSによる雇用統計の年次改訂にも関わらず、今年も雇用者数の健全な増加が続くとの見方が共有された。

この間、賃金上昇が抑制的である理由については、数名(several)のメンバーが、技術革新や労働者による雇用安定志向、賃金以外の雇用条件の改善などの要因を挙げた一方、多く(a number of)のメンバーは、生産性やインフレ率とは整合的なペースであるとの理解を示した。

その上で賃金については、昨年前半の低インフレの影響も剥落し、2%目標に対して緩やかに加速するとの見方を維持した。なお、数名(a few)のメンバーが、インフレ目標の未達成によるインフレ期待の低下リスクを指摘した一方、他の数名(a few)のメンバーは基調的インフレ率が足許で改善した可能性を指摘した。

金融システムの評価

執行部は、金融緩和の継続期待もあって投資家のセンチメントは改善し、事業法人によるハイイールド債やレバレッジローンの発行が引続き高水準であるほか、金利低下を背景に、商業不動産向けの貸出や住宅向けのモーゲージローンが顕著に増加した点を指摘した。

その上で、金融システム全体のリスク評価はmoderateに維持し、 GDP比でみた事業法人の負債の大きさや、商業銀行による(配当増加を通じた)自己資本比率の引下げの動きに注意を示した。 FOMCメンバーもこうした評価を受け入れた上で、数名(several)からは、株式や社債、商業用不動産のバリュエーションの高さや、レバレッジローンの引受条件の緩さへの留意が示された。

金融政策の見直し-金融システム安定との関係

執行部は、中立金利が低い下で、デュアルマンデートを追求するために緩和的な金融政策を維持することは金融システムの安定に寄与するとの考えを示した。また、実証的には政策金利の変化による資産価格やリスクプレミアムへの影響は小さいと説明した。

もっとも、局面によって金融緩和の維持がレバレッジの増加やバリュエーションの上昇を通じて、金融システムの脆弱性を増加しうる点も認め、FOMCが、金融政策と金融システムの安定に関する明確な説明を行うことが有用と指摘した。

FOMCメンバーも、経済の安定やデュアルマンデートの達成が金融システムの安定に依存する点を確認した。

その上で一部のメンバーは、金融緩和と金融システムの脆弱性の関係は弱く、過去の過度なリスクテイクも政策金利の変更に反応した訳ではないと主張した。また、多く(a number of)のメンバーは、景気や物価の安定に必要である限り、低金利は金融システムの安定に寄与しうるとの理解を示した。

これに対し、数名(some)のメンバーは、特に完全雇用のような状況では、低金利政策の維持が金融システムの脆弱性に繋がると反論した。

金融システム安定の維持には、規制や監督、マクロプルーデンス政策が第一義的な手段であることに、FOMCメンバーも概ね(generally)一致した。その上で、多く(a number of)のメンバーはCCyBのような手段の有用性を指摘しつつ、米国では発動経験が乏しいとの留意も示した。また、銀行システム外に対する手段の乏しさや他の当局との調整の必要性も指摘された。

また、多く(many)のメンバーは、金融政策と金融システムの脆弱性との関係に関する知見が不十分であることを踏まえると、金融政策は基本的には雇用や物価の見通しに即して運営し、デュアルマンデートの達成を阻害するリスクが大きい場合にのみ、金融システムの安定に対応すべきと主張した。数名(some)のメンバーはそのためにもFOMCのコミュニケーションが重要と指摘した。

金融政策の見直し-インフレ目標のレンジ化

執行部は、①インフレ率の変動に関する不確実性を容認する方法(uncertainty range)、②目標からの意図的な乖離を示唆する方法(operational range)、③目標からの乖離を放置する方法(indifference range)の三つの案を提示した。

また、実際のインフレ率が目標を下回っている中で対称なレンジを導入した場合に、それがレンジ内にあればインフレ目標の未達成に中央銀行として懸念しないと誤解される点も含めて、コミュニケーションの課題も指摘した。

これに対し、多く(many)のメンバーは執行部の懸念に同意したほか、上記の①の方法も結局は③と同じ意味合いで誤解される可能性があると指摘した。さらに、数名(some)のメンバーは、レンジを導入することで、インフレ目標がむしろ不明確になることへの懸念を示し、2%に関して対称な目標である点だけを示すべきと主張した。

これに対し数名(several)のメンバーは、インフレ率が様々な要因で変動することを踏まえれば、目標をレンジとして示すことは有用と主張したほか、さらに数名(several)のメンバーは、長期的には2%目標を維持しつつ、②の方法を上下非対称の形で導入することが、目標達成に対するコミットメントを示す上で有用と主張した。

議事要旨が認めるように、このテーマに関する意見の違いはまだ大きく、今後のFOMCでさらに議論を続けることになる。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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