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FRBによる「市場機能の最後の担い手」-four-letter words

2020/03/20

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はじめに

FRBは、ここへきて金融市場の機能維持に焦点を絞った対策を次々に導入している。それらは、世界金融危機の際の対策の焼き直しである一方、新たな意味合いも有している。

PDCF

17日に導入が決定したのはPrimary Dealer Credit Facility(PDCF)である(ただし、実際の発動は20日から)。

米国債市場の機能を支える金融機関として予め指定されているPrimary Dealer(大手の銀行や投資銀行)を対象に、FRBNYがO/Nまたは90日以内の期間で貸出を行うものである。適格担保は、通常のオペに比べて拡大され、社債、国際機関債、CP、地方債、MBS、ABS、株式が加えられた。金利は(FRBNYの)Discount WindowのPrimary Creditと同じとされ、これは15日の臨時FOMCの決定に沿って0.25%になっている。

本措置の直接的な背景は、米国債市場の機能が大きく低下し、利回りの変動幅が顕著に拡大したことである。Primary Dealerにバックファイナンスを与えることで、マーケットメイクの機能を補強し、米国債の需給変動に伴う価格変動を抑えようとした訳である。

CPFF

同じく17日に導入が決定されたのは、Commercial Paper Funding Facility(CPFF)である(ただし、実施を担うSPVの設立は21日)。

FRBNYが特別目的会社(SPV)を新設し、これに貸出を行う(条件は未公表だが、おそらく下記の買入れ条件と連動する)ことで、SPVが(Primary Dealer経由で)CPを買入れる。対象は、米国法人(海外法人の子会社を含む)の3か月物で、A1(ないし同格)に限定する(ただし、3月17日以降にA2(ないし同格)に格下げされたものも1回限り容認)。買入れ利回りは3か月物OIS+200bpで、各発行体からは10bpの手数料も別途徴収する。

本措置の背景は、クレジット市場全般のストレス上昇につれてCP市場も不安定化していたことである。SPVによる買入れを通じて他の投資家による不安を払拭し取引を促すことで、CPの円滑な発行や借換えを通じて企業の資金繰りを支えようとした訳である

MMLF

さらに18日に導入が決定されたのは、Money Market Mutual Fund Liquidity Facility(MMLF)である(ただし、実施日は18日以降とされ未公表)。

Prime MMFから資産の買取りを行う金融機関に対し、FRB Bostonが、担保(買取り資産)の満期期間以上12か月以内の期間で貸出を行う。適格担保は、米国債、GSE債、ABCP(A1または同格)、CP(A1または同格)とされ、対象金融機関は預金取扱金融機関、BHC、外国銀行の支店である。貸出金利は、1)国債やGSE債が担保の場合(FRB Bostonの)Primary Credit(つまり0.25%)、2)それ以外は100bp上乗せ(つまり1.25%)である。

本措置の背景は、MMFが顧客の償還請求に対応するため、保有資産の売却を進めことたことが、広範な資産市場の機能にストレスを生じたこと、ないしその恐れが生じたことである。金融機関 にバックファイナンスを供与することで、金融機関がMMFによる資産売却のバッファーとして機能できるようにした訳である。

一連の措置の意味合い

金融市場の機能を支えて、必要な与信が企業や家計に行き渡るようにする措置は、利下げよりもむしろ優先度が高かったはずであるし、先週後半に市場関係者やメディアがこの問題を指摘してから動いたことには批判も多いようだ。

もっともFRBにとっては、世界金融危機の際に市場参加者を「裁量的に救済」したことへの政治的批判やこれに伴う連銀法13条(3)の改正によって動きにくかった点があるかもしれない。実際、後者に関しては、筆者が今年1月に米国を訪問した際、レポ金利高騰対策としてのstanding facilityの導入に関する課題の一つとして指摘する向きもあり、その重要さを再認識させられた。

一連の措置の声明文が、連銀法13条(3)に即し、財務省の合意を得て実施されることをいずれも明記しているほか、CPFFやMMLFについては、財務省(ESF)が信用補完のために各々100億ドルを供与することとした点も、上記のような批判の抑制という意味合いもあるように感ずる。

内容面では、いずれも世界金融危機に際してFRBが導入した措置の焼き直しであるが、対応しようとする問題には違いもある。

前回のPDCFは、Primary Dealerの多くがMBSの不良資産化やレポ市場の機能不全などによって苦境に陥っていたことへの対応という面が強かったが、今回のストレスのコアは米国債市場の参加者による換金売りの方である。

また前回のCPFFは、高レバレッジを支えていたABCP市場の崩壊の余波によるCP市場の機能不全に対応するものであったが、今回のCP市場のストレスはそこまで深刻でなく、予防的措置という面もある。また、前回のMMLFは略称こそ同じだが、正規名称はAsset-Backed Commercial Paper Money Market Mutual Fund Liquidity Facilityであり、文字通り、ABCP市場の崩壊の影響の波及を食い止めることに主眼があった。

これらを思い起こすと、FRBだけでなく主要国の中央銀行が主張するように、金融規制や監督の強化が効果を発揮したことは事実である。金融システムを支える大手金融機関の自己資本や流動性は頑健であり、レバレッジも当時に比べてはるかに小さい。これらのプレーヤーが問題の源泉になったり、ストレスを増幅したりするリスクは小さい。

一方、米国債市場までも市場流動性が喪失し、需給の変化によって利回りが大きく変動したことは衝撃的であった。市場参加者はストレステストなどを通じてこうした状況への備えができているとしても、米国債市場で形成される利回りは広範な経済活動に大きな影響を与えてしまう点で無視しえない問題である。

今回、FRBだけでなく主要国の中央銀行は、世界金融危機の経験を踏まえて「市場機能の最後の担い手(MMLR)」を発揮している。そのことは必要かつ重要であるが、それらはあくまでも危機の際に限定すべき手段である。主要な金融市場の機能を平時からどう強化するかも、劣らず重要な問題と言える。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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