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4月FOMCのMinutes-No less plausible

2020/05/21

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はじめに

金融政策の現状維持を決定した4月FOMCでは、米国経済に関して慎重な見方を維持した。また、今後の追加緩和手段についても、いくつか具体的な案が提示された。

金融市場と金融システムの評価

執行部は、金融調節の総括と金融市場の評価を通じて、米国の金融市場が3月後半に比べ、FOMC開催時には総じて機能を回復し、安定を取り戻しつつあると評価した。具体的には、国債市場やAgency MBSの流動性、短期金融市場の金利水準、投資適格債の発行額、株価のボラティリティ等の面で顕著であるとした。

もっとも、市場では米国経済の先行きに対する不透明感が引続き極めて高く、従って社債のリスクプレミアムは一時より縮小したが依然として大きいほか、ハイイールド債やレバレッジローンの発行も再開したが低水準に止まっている点を指摘した。

また、銀行セクターが頑健性の高い状態で問題に直面したため、これまでのところ貸出需要の増加に対応できている点を評価した一方、4月の銀行貸出サーベイ(SLOOS)で、商工業(C&I)や商業不動産(CRE)向けのローンに対して与信スタンスを顕著にタイト化させたことに留意した。

借り手側に関しても、FRBによる一連の対応策にも拘らず、大企業では利益の減少と格下げのリスクが広範に高まっているほか、中小企業の資金調達環境は明確に悪化し、地方債のリスクプレミアムの拡大や発行額の減少も解消していないと指摘した。

FOMCメンバーも、大きな負債を抱えた非金融企業の信用リスクの高まりが銀行やその他の金融機関に与える影響に懸念を示すとともに、監督当局が銀行に対して、利益の社外流出を抑制させることで損失負担力を高めるべきと指摘した。

このほか執行部は、金融安定報告(FSR)と同様に、住宅ローンの支払い猶予に伴うサービサーへのストレス、低金利環境で収益性が低下している中でクレジット市場に大きく投資している生命保険、期間のミスマッチの大きい一部のMutual Fundなどの課題を指摘した。

経済の評価

FOMCメンバーは、Covid-19問題が家計の支出とマインドの双方を顕著に低下させている点を確認し、その影響がホテル、ガソリンスタンド、エアライン、レストラン、劇場といった特定の部門に集中している点を指摘した。加えて、今後の雇用や既存借入れの返済に関する不安が拡大しつつあり、予備的貯蓄の積み上げに繋がるとの見方を示した。

この間、失業率は戦後最高の水準に上昇する可能性が高いとし、一時帰休やレイオフが既に拡大しつつあるとした。さらに、失業の長期化がスキルの低下や労働市場からの退出に繋がることに懸念を示し、こうした影響が低所得層に集中している点に留意した。

企業についても、サプライチェーンの毀損と需要の低迷で顕著な影響を受けているとし、地区連銀の総裁からは、雇用の削減や設備投資の先送りの動きが指摘された。この結果、新規の資金借入れのほか、返済猶予や助成金等に対するニーズが高まっており、特に中小企業では、PPPローン等の支援に拘らず、手元資金の乏しさや代替的資金手段の不足、銀行による与信スタンスのタイト化によって厳しい状態にあるとの認識を示した。

今後の米国経済について、執行部は前回(3月)のFOMCに比べて下方修正した見通しを提示した。それによれば、本年後半には実質GDP成長率や失業率が顕著に改善するが、年末時点でも完全な改善は見込めず、物価も失業率の上昇とエネルギー価格の顕著な下落によって軟化するとしている。

もっとも、このメインシナリオには大きな不確実性があり、過去の景気循環に関する経験則も有用でないとして、リスクシナリオが顕現化する可能性も低くないと指摘した。その下では、第二波の感染と経済活動の抑制が本年末頃に生じ、実質GDPと失業率、物価等に悪化圧力が再び生ずることになる。

FOMCメンバーも、今後の経済に関する不確実性の高さを指摘した。多くの(a number of)メンバーは、感染拡大の再発リスクが高いとの認識を示し、経済活動の抑制やサプライチェーンの毀損、企業や所得の喪失などによって相当な期間にわたって経済活動が停滞する恐れに懸念を示した。

一方で、感染が今後数か月間に相当に抑制され、企業や家計が慎重なマインドを変えることができれば、米国経済は予想より早く回復するとの見方も示した。併せて、米国経済にとっては、新興国を中心とする海外からの影響も大きいとの見方が示された。

より長期的な視点からFOMCメンバーは、失業者がスキルや育児、介護の機会の喪失などによって、労働市場から退出するリスクを指摘した。また、企業に関しても、感染防止策による生産性低下や、投資スタンスの変化、ビジネスモデルの調整や中小企業の退出等による影響に留意を示した。

政策判断

今回(4月)のFOMCでは、FOMCメンバーは全会一致で金融政策の現状維持を決定したほか、金融市場の機能や企業や家計に対する与信の維持に向けた対応策の効果を前向きに評価した。

もっとも、今後の政策対応については様々な意見が示されたようだ。数名(some)のメンバーはフォワードガイダンスの明確化を取り上げ、①インフレ率や失業率の具体的水準に条件づけるなど、 outcome baseとする、②特定の期間に紐づけるdate baseとするといった案に言及した。また、数名(several)のメンバーは、現在進行中の金融政策の見直しの完了-年後半とみられる-に伴う結果公表が、政策運営のコミットメントの明確化に繋がるとした。

さらに、数名(several)のメンバーは、国債やAgency MBSの買入れについても方針を明確化すべきと主張したほか、数名(several)のメンバーはこうした資産買入れが(市場機能の維持だけでなく)長期金利の低位維持にも活用しうるとの考えを示した。加えて、数名(a few)のメンバーは、一定の期間に亘って中短期の国債利回りを特定の水準に抑制するのに十分な量の国債買入れを行うことで、フォワードガイダンスを強化しうるとの考えを指摘した。その意味では、マイナス金利よりも、イールドカーブ・コントロールの方が実現可能性が高いように見える。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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