フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 11月FOMCのMinutes―Fairly soon

11月FOMCのMinutes―Fairly soon

2020/11/26

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

はじめに

11月のFOMCにおける政策決定は金融緩和の現状維持であったが、会合では、多様な論点について興味深い議論が行われた。

経済情勢の評価

FOMCメンバーは、景気回復のペースが当初予想より早いものの、足許で減速していると総括した。

財消費は、政府の財政支出や失業保険の強化に支えられ、年初の水準を回復したが、サービス消費は自発的ないし政策的な対応のため、航空、宿泊、飲食を中心に回復が鈍いとした。今後も、耐久財消費や住宅投資を中心に家計支出は強いとの見方が大勢(generally)だったが、家計資産の健全さや貯蓄のバッファーといった好材料と、追加的な財政支出の欠如といったリスク要因の双方が指摘された。

設備投資については、景気回復に伴う増加を見込む意見と、先行きの不透明性を背景に投資判断を先送りする事例への言及の双方が示され、業種や企業規模による違いも確認された。

雇用についても想定以上の回復を確認し、製造やヘルスケア、 IT等では、Covid-19や子弟のケアのため人員確保が困難となったとの報告があった一方、失業率の低下が労働参加率の低下を伴う点や、人種や性別の点でストレスに偏りが大きい点も指摘された。その上で、ほとんど(most)のメンバーは労働市場の改善が今後は減速するとの見方で一致し、そうした状況の継続が一層の格差の拡大につながるとの懸念も共有した。

物価も、耐久財等の価格上昇の一方で、サービス価格の軟調さのため、全体としても依然として軟調であると評価したほか、こうした相対価格の顕著な変化や先行きの不透明性が今後の物価に与える影響への懸念も示された。

これらを踏まえ、経済見通しには不透明性が極めて高く、リスクも下方に傾いているとの評価を維持した。また、多数(majority)のメンバーは財政刺激策が不十分となる恐れに懸念を示した。もっとも、執行部は、追加経済政策が実施されなくても、高水準の家計貯蓄が消費を支えうるとして、経済成長率に大きな影響はないとの見方を示した。

金融システムの評価

執行部は、低金利と資産価格の上昇により、資本市場の金融環境が緩和的に維持された点を確認した。社債発行は減速したが高水準を維持した一方、借り換えが中心とみられ、CP発行の減少にも影響したとの見方を示した。この間、社債やレバレッジローンの格下げは年初の水準に戻ったが、デフォルトは依然としてやや高い水準と評価した。

銀行の商工業向け貸出は、貸出姿勢の慎重化とクレジットラインの利用減少によって減速していると説明した。一方で、中小企業向け貸出はPPPローンの終了に伴って落ち込み、資金需要が依然として強い中で、商務省調査によれば手元資金が2カ月程度に低下した点を挙げて、中小企業の金融環境に懸念を示した。

家計に関しては、住宅ローンと消費者ローンの双方について、全体としては緩和的な環境が維持されたと評価した。もっとも、双方ともに信用スコアによって大きな違いもあり、銀行は低スコア層に対する与信姿勢を慎重化していることを確認した。

今回(11月)のFOMCでは、従前と同じく金融システムのリスク評価も行われた。執行部は全体のリスクを(長い目で見て)中程度と評価したが、経済の不透明性が高い下で、資産価格の調整リスクは依然として高い(significant)としたほか、企業や家計の負債に伴う脆弱性も注意すべき(notable)と評価した。金融システム全体のレバレッジは緩やか(moderate)としたが、今後の経済の展開によって影響を受けうるとの見方を示した。

FOMCメンバーからは、家計や銀行の資産内容の健全さといった好材料も挙げられたが、本年春の国債市場の機能低下に関連して、prime MMFやローンファンドによる金融仲介に関する議論が行われ、高度に緩和的な金融環境が過度なリスクテイクにつながる可能性も指摘された。

資産買入れの運営

今回(11月)のFOMCでは、資産買入れの運営も取り上げられた。執行部説明に続く議論のうち 、目的に関しては、多数(many)のメンバーが市場機能は回復した中で、金融緩和の維持に移行したとの理解を共有しつつ、不確実性が高い下で今後のリスクへの保険としての意味合いも共有した。この間、各々少数意見ではあるが、国債増発に伴う金利上昇を抑制する意味合いと、低金利の下での緩和効果に対する疑念の双方も示された。

内容に関しては、追加緩和が必要な場合、①買入れペースの加速、②長期債のウエイト増加、③買入れ期間の延長といった選択肢を示した。また、数名(several)のメンバーは、カナダの例を参照しつつ、買入れペースを減速しつつ長期債のウエイトを増加すれば金融緩和を維持しうると主張したが、市場との対話への課題も認めた。

フォワードガイダンスについては、ほとんど(most)のメンバーが、「定量的かつ経済指標に基づき(outcome-based)、継続期間に関する見方に紐づけられた」ものへいずれ移行すべきとの意見で一致した。併せて、利上げ開始に多少先立つ形で資産買入れの減速や停止を行う考えで、ほとんど(most)のメンバーが合意した。もっとも、多く(a number of)のメンバーは、その後も再投資により資産規模を維持するとの見方も強調した。

これらの見直しの実施時期に関しては、買入れペースや内容の変更を直ちに行う必要はないとした一方、フォワードガイダンスについては上記の方向での変更を比較的速やかに (fairly soon)行うべきとの意見が大勢(many)を占めた。

経済見通しの改定

さらに今回(11月)のFOMCは、金融政策運営の見直しで宿題となっていた経済見通し(SEP)の改定も議論した。具体的には、① FOMCメンバーによる見通しの分布の詳細を、議事要旨でなく公表文と同時に公表、②その際には、FOMCメンバーによるリスクや不確実性に関する評価もDIとして新たに公表、の二点である。

このうち②は、政策判断におけるリスクマネジメントの意味合いや見通し自体に関する不確実性の度合いをより明確に伝えることが期待されている。ともに全会一致で決定され、次回(12月)のFOMCから実践されることになった。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn