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日銀の政策運営の見直し―より効果的で持続的な金融緩和

2020/12/21

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はじめに

日銀は今回(12月)の金融政策決定会合で、より効果的で持続的な金融緩和を実施するための点検を行い、結果を3月会合を目途に公表することを決定した。想定される内容や意味合いを検討しておきたい。

見直しの背景

黒田総裁が記者会見で強調したのは、Covid-19の感染拡大のため、経済や物価への下押しが長期化する見通しとなった点である。実際、前回(10月)の金融政策決定会合による見通しは、 2022年度の消費者物価(コア)の上昇率は+0.4~+0.7%と目標に遠く及ばず、実質GDPも2021~22年度の高めの成長でも、 2019年度の水準を取り戻すことが難しいという内容であった。

しかも、2023年度以降にGDPギャップがプラス(需要超過)に転じたとしても、黒田総裁が言及した「物価の総需要に対する感応度の低下」が続く限り、インフレ率が加速的に高まることは考えにくい。つまり、2%の物価目標を追求する限り、日本経済がCovid-19の影響を明確に脱出した後も、金融緩和の継続が求められる。

しかし、フィリップスカーブのフラット化は、Covid-19によるインフレ期待への影響といった変化がありうるとしても、長らく存在してきた事象であり、政策委員会も予てから物価目標の達成に時間を要するとの見方を示していた。その意味で、金融緩和の効果や持続性の観点からの見直しは早晩必要でもあり、Covid-19を契機に緊要度が高まったと理解することができる。

その一方で、声明文や記者会見では明確に言及されていないが、今回の見直しに影響を与えた可能性がある要素を指摘できる。

国内に関しては、累次の経済政策に伴う国債発行の急増である。一時的には短期国債で賄う-日銀も買入れを増やしている-としても、徐々に中長期の国債へとシフトすることが想定され、経済の回復に時間を要する中での税収の回復が緩やかとなれば、国債発行の抑制にも時間を要する可能性がある。

市場の潤沢な流動性や低インフレの長期化見通しといった環境の下で、国債の需給悪化に伴う金利上昇圧力の高まりのリスクは大きくない。ただし、黒田総裁はこの間の財政と金融の連携に関して、緩和的な金融環境による円滑な財政資金の調達が重要であると指摘してきた。そうした役割を持続的に果たしうるかどうかも、今後の政策運営でポイントとなりうる。

海外に関しては、米欧の金融緩和の長期化が明確化した点である。FRBは緩やかな「平均インフレ目標」の下で、利上げ開始は2024年入り後との見方がFOMCと市場で共有されている。ECBも、12月の見通しによれば2023年のHICPインフレ率も目標に及ばず、利上げ開始は2024年入り後になる(現在進行中の金融政策の見直しの結果でさらに先送りされる可能性もある)。

加えて、FRBもECBも国債等の資産買入れについて、少なくとも2022年にかけての規模を事実上明示した。これに対し、日銀は今回(12月)の声明文でも「上限を設けず必要な金額」という危機モードを維持し、実際の買入れは抑制的である。

YCCの下で買入れ額が「内生化」するのは当然である一方、米欧の中央銀行が今や量にコミットした下で、市場がどう受け止めるかという問題は残る。黒田総裁も記者会見で、主要国の中央銀行が2%の物価目標を共有することは、為替レートの安定に資するとの考えを示した。米欧での強力な金融緩和に対する、日本での金融緩和の相対的な「強度」の維持もポイントとなりうる。

見直しの枠組み

見直しの枠組みに関して今回の声明文が明記したのは、2%の物価目標を実現するための点検である点である。黒田総裁も記者会見の質疑応答で、物価安定が日銀の政策目標であり、計測のバイアスや政策金利の調整余地の観点から、2%インフレが適切であるとの考えを確認した。

同じく声明文(と添付資料)が明記したのは、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」(QQE+YCC)の枠組みも変更しない点である。黒田総裁は、Covid-19に伴う金融経済への影響に対する上でも、枠組みの有効性が確認されたとの理解を強調した。

留意すべきことは、第一に、黒田総裁がマイナス金利政策の見直しを否定した点である。今回の見直しが持続性にポイントを置いている以上、金融仲介への影響が指摘されるマイナス金利政策の見直しも俎上に乗せるべきとの意見もあろうが、可能性は明確に排除された。

第二に、黒田総裁がYCCにおける目標金利の変更―10年国債の利回りでなく中期国債の利回りに変更するなど-も明確に否定した点は注目される。そうした思惑は、2016年の「総括的検証」の中で日銀が示した議論―実体経済に対しては中短期金利の変化による影響が大きい-に基づく面が強いが、この点に関する変更の可能性も明確に排除された。

一方、記者会見ではETF買入れの見直しへの思惑も強かった。このうち、市場機能やガバナンスの副作用については、黒田総裁は信託銀行による権利行使の枠組み等を挙げ、大きな問題はないとの見方を確認した。もっとも、中央銀行として異例な手段であることは事実とし、効果的で持続的な運営に向けた点検は重要との考えも示した。

想定される内容

上記の議論に加え、黒田総裁がYCCと資産買入れの運営が重要との考えを示しただけに、焦点の一つは国債買入れの量的運営にあるとみられる。政策課題が経済と物価の回復促進にシフトする一方、インフレ目標のために超低金利政策を維持する下で、米欧とも共通の課題であるが、YCCの下にある日銀の場合、目標金利の達成と整合的な水準や継続期間を示すという難しい問題でもある。

YCCに関しては、新型オペによって導入した当座預金への付利を制度として恒久化するかどうかも、金融緩和の持続性の観点からポイントとなりうる。この点は「無利子・無担保融資」の制度が終了した後も見据えた検討が必要となる。

ETFの買入れは、金融経済の状況を見つつ上限を元に戻すことは考えられるが、それは通常の政策判断である。実際の買入れペースは柔軟であり、黒田総裁も副作用に否定的であるだけに見直しの可能性は小さい。むしろ、持続性の観点からは、局面によって生じうる損失に関する考え方や対応を明記する方が重要であるように見える。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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