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2020年の中国政府予算案について

2020/05/29

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全国人民代表大会(全人代)における政府活動報告や中央・地方政府の予算報告の発表により、2020年の中国の国家予算の姿が明らかになった。

財政赤字

財政赤字は、対名目GDP比で3.6%以上と19年の2.8%から拡大する。財政赤字額は3兆7,600億元と19年比1兆元増加する。中国政府は、1兆元の抗疫特別国債(後述)発行と合わせて、これらの2兆元はすべて地方政府に回るとしている。

新型コロナ感染の影響で景気が悪化し財政状況が厳しくなる中で、財政赤字を増加させて経済活動、特に地方を支えるのは止むを得ないところである。地方政府への資金の流れを見ると、国の財政赤字の前年からの増加分1兆元は、中央政府の国債発行が前年比9,500億元増加し、地方債(一般債)発行が同じく500億元増加することで資金調達される。そして、中央政府から地方政府への移転支出が前年比約8,500億元増加している。

中国政府は、特殊な(中央から地方への)移転支出メカニズムを構築し、資金が直接、市・県政府に渡る、としている。資金は、主に雇用、生活を守ることに使用される。具体的には、減税・費用引下げ、家賃引下げ・金利引下げ、消費・投資の拡大等である。また、資金の滞留や流用を許さず、生活関連や重点分野への支出はよいが、オフィスビルや宿泊施設の新たな建設を禁じ、浪費も禁じている。

移転支出について見ると、市・県レベル政府に直接資金に渡るようにする、つまり省レベルや地級市(省都などの大都市)レベルを飛ばすことには、支給のスピードアップを図ることに加え、階層を経ることによる資金用途の不透明化等を避ける意図があろう。資金用途について一々禁止しているのも同様で、流用を警戒しているからである。背景には、リーマンショック後の4兆元の大型景気刺激策の後遺症(無駄な投資、過剰設備、それに関連する不良債権)に苦しんだことがある。

特別国債と地方政府レベニュー債

財政赤字に計上されない抗疫特別国債と地方政府のレベニュー債(専項債)について見る。

抗疫特別国債は、新型コロナウィルス感染症拡大の影響に対応するために発行される。規模は1兆元で10年物が主である。利払いは中央財政が負担し、元本返済は中央政府財政が3,000億元、地方財政が7,000億元を負担する。次に述べるレベニュー債同様に政府性基金予算に組み入れられる(一般財政とは別勘定であり、財政赤字に計上されない)。上述したように調達資金はすべて地方政府に回され、主に公共衛生等のインフラ施設建設と抗疫関連支出に使われる。

特別国債は、財政赤字に計上されないため、償還のための収益が必要なはずである。過去2回の発行を見ると、98年には4大国有銀行の資本金補充、07年には中国投資公司(CIC、外貨準備の一部を運用するために設立された国有会社)設立の資本金に使用された(配当金が収益となる)。今回も、上述のインフラプロジェクトの資本金として使用する等の方法が考えられる。

一方、地方政府のレベニュー債は、3.75兆元発行される(19年は2.15兆元)。既に、昨年来3度に上る前倒し発行の決定により、全人代前に既に2.29兆元の発行が決まっており、報道によれば、前倒し分は大部分発行済みである。

レベニュー債の規模、資金用途とも、概ね事前の予想通りであるが、資金用途については「両新一重」(二つの新、一つの重)と言われている。具体的には新型インフラ建設、新型都市化、重大プロジェクト(交通、水利)のことである。5G、IoT、スマート交通インフラ等の新しい分野と従来からのインフラ建設により、新たな産業のための環境整備と総需要の下支えを図るものと思われる。

減税と費用引下げ

減税と費用引下げの規模は2.5兆元である。減税と費用引下げは、個人・企業の負担軽減のために過去数年続いているが、2020年における減税と費用引下げの主な目的は、企業、特に中小企業の存続であり、それにより雇用等を守ることが重点であろう。

20年における負担軽減の内訳を見ると、①19年の減税と費用引下げ措置の継続効果が5,000億元、②20年、新型コロナ感染拡大に対して全人代までに採られた減税・費用引下げ措置の効果が1.1兆元、③全人代で②の措置の期限(注)を20年年末まで延長したことによる9,000億元で、計2.5兆元である。

(注)例えば、湖北省のすべての企業や湖北省以外の省の中小・零細企業に対し、社会保険料の納付を5ヶ月間(2月~6月)免除する、というように期限がある。

執筆者情報

  • 神宮 健

    金融イノベーション研究部

    上席研究員

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