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中国暗号法とデジタル人民元

2020/01/08

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中国暗号法が1月1日に施行

1月1日に中国で「暗号法」が施行された。中国の暗号技術分野における最初の法律である。これによって、ブロックチェーン技術に基づく中国の中銀デジタル通貨、いわゆる「デジタル人民元」の発行に向けた法制面での環境整備が進んだと言える。

同法に言う暗号とは、特定の変換方法を採用し、情報などに対して暗号化保護、安全認証を行う技術、製品およびサービスを指すと定義される。そのうえで、暗号は「核心暗号」、「普通暗号」、「商用暗号」の3つに分類される。

核心暗号と普通暗号は、国家機密情報と機密に関わる情報システムの保護に使われるものだ。そして、暗号管理機関がこれらの暗号の研究や生産、使用、廃棄などの各プロセスに対して厳格な統一的管理を実施し、安全を確保する。

これに対して商用暗号は、国家機密でない情報の保護に利用される。金融や通信、公安、税務など、国の重要な情報インフラや人々の日常生活と密接に関わる重要分野をカバーするものだ。国家の安全を守り、経済・社会発展を促し、公民や法人、他の組織の合法的権益などを守る上で重要な役割を果たすとされる。

商用暗号の管理については、国が技術開発や学術交流、成果の実用化、運用拡大を奨励し、統一的かつ開放的で、競争的で秩序ある商用暗号市場システムを整備し、商用暗号産業の拡大を奨励し、促進するとも規定されている。つまり、この分野での産業育成支援が強く意図されているのである。

中国サイバーセキュリティ法と対を成す

他方、同法では、中国共産党が暗号分野の指揮を執ること、中国政府が国家や業界の暗号の基準作りを担うことが規定されている。暗号技術分野を国・党の管理のもとに置くことを法的に明確にすることが、同法策定の最大の目的なのだろう。

同法が成立したのは、2019年10月26日のことだ。その2日前に習近平国家主席は、各国との競争に備えて、ブロックチェーンの領域で我が国を最前線に導き、産業の新しい優位性を獲得するために努力する必要がある、と強調している。ブロックチェーンを中心に、暗号技術分野で中国が世界の覇権を握るという国家戦略が、暗号法施行の背景にあると見て良いだろう。

さらにこの暗号法は、2017年6月に施行された「中国サイバーセキュリティ法(中華人民共和国網絡安全法)」と対を成す法体系なのではないかと推察される。サイバーセキュリティ法の目的は、個人情報の保護にあると説明されている。しかしそれに加えて、データ分野での国家主権の確立、国際覇権の確立が強く意図されているとみられる。

ブロックチェーン技術での国際覇権の確立も狙うデジタル人民元

例えばサイバーセキュリティ法では、ネット企業が取得した個人データを、中国国内に保存することが義務付けられた。中国政府がこうしたデータに容易にアクセスできるようにするため、と見られている。こうした措置は、「データローカライゼーション」として海外から批判されている。

サイバーセキュリティ法が、データの移転に関するルールを定めたものであるのに対し、そのデータの移転・流通を支える暗号技術についてのルールを定めたのが中国暗号法であると位置づけられるだろう。そして、中国暗号法においても、暗号技術分野での国家主権の確立、国際覇権の確立が強く意図されているとみられる。

欧米や日本は、中国がいち早くサイバーセキュリティ法を成立させ、データ流通分野での国際基準を作ろうとしていることを強く警戒し、新たなデータ流通の国際ルールの策定を進めている。そうした中、今度はデータの流通を支える暗号技術の分野で、中国は新たなルール作りを進めたのである。この点から、中国の動きは、他国に1歩先んじているという印象は否めないところだ。

そして、暗号技術に支えられた一大プロジェクトこそが、既に秒読み段階とされるデジタル人民元の発行なのである。そこには、人民元の国際化を進めるという大きな狙いがあるが、もう一つの狙いは、ブロックチェーン技術での中国の国際覇権の確立にあると言えるだろう。

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