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米国で広がるキャッシュレス(現金お断り)店禁止法

2020/01/28

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ニューヨークはキャッシュレス店禁止の全米3番目の市に

ニューヨーク市議会は1月23日に、市内のレストランや小売店が現金での支払いを拒否し、クレジットカード払いなどに限ることを禁止する法案を、賛成43反対3の圧倒的賛成多数で可決した。法案の成立には市長の署名が必要だが、市長は同法案を支持しており成立する可能性は高い。同法は市長の署名から9か月後に施行される。

この法律に違反した店舗は、初犯の場合に1,000ドルの罰金を科される。さらに、2回目以降の罰金は1,500ドルへと跳ね上がる。

ニューヨーク市議会がこの法案を可決した狙いは、銀行口座やクレジットカードを持たない人々は、現金以外に支払い手段がないことから、彼らの不利益につながるキャッシュレス支払いの強制を規制することである。いわゆる、すべての人が利便性の高い金融サービスを利用できるように促す「金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)」の観点である。

2019年のニューヨーク市の発表によると、全体の11%の世帯が銀行口座を持たず(unbanked)、21.8%の世帯は口座を持っていても小切手による支払いや銀行以外の金融サービスを利用している(underbanked)という。

ニューヨーク市会議員が最初にこのキャッシュレス禁止法案の導入を呼びかけたのは、2018年のことだ。それを一つのきかっけに、キャッシュレス化の是非を問う議論が全米で巻き起こったのである。その結果、サンフランシスコ市とフィラデルフィア市は2019年に、ニューヨークと同様の法律を制定している。ニューヨークはキャッシュレス店禁止を導入する3番目の市となる。さらに、ニュージャージー州は州全体でキャッシュレス禁止法を導入している。

「現金お断り」は違法ではない

多くの国では、法定通貨の現金を、支払いの最終手段として常に通用するように国家が国民に強制できる「強制通用力」が法律で規定されていると考えられる。例えば日本では日本銀行法第46条で、「日本銀行が発行する銀行券(日本銀行券)は法貨として無制限に通用する」、と規定されている。

現金の強制通用力が法律で規定されている点を踏まえると、店舗が現金での代金受け取りを拒否することは違法であり、新たにキャッシュレス禁止法を成立させる必要はないようにも思える。

しかし、現金での代金受け取りを拒否する場合には、「契約締結の自由」が、現金の強制通用力に優先するとみなされるのだろう。店舗が「現金お断り」という貼り紙を店頭に掲げ、それを了解した上で顧客が商品を購入する場合には、キャッシュレス支払いという決済の条件を商品売買の前提として顧客側が受け入れたものと見なすことができるのだろう。

金融包摂の観点から米国とスウェーデンは逆の方向へ

キャッシュレス禁止法は、金融包摂の観点から一定の妥当性はあるが、他方で、業務の効率化や銀行強盗などの犯罪防止の観点からキャッシュレスを推進させたいとする小売店側の意向を踏みにじっている、という面もあるのではないか。

米国と同様に、キャッシュレス化の推進によって現金支払いに支障が生じている低所得や高齢者などを救済するという、やはり金融包摂の観点から、中央銀行自らが、誰でも簡単に使える中銀デジタル通貨を発行することを検討しているスウェーデンの例もある。米国とは全く逆の方向の政策によって、同じように少数派を救済しようとしているのである。

米国でも、キャッシュレス店を禁じるよりも、銀行口座を持たない人を減らしていくなどの政策をまず優先させるべきなのではないか。

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