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未だ米大統領選挙の行方を展望できる状況にない

2020/02/10

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民主党大統領候補者は左派と中道で分裂

11月の米大統領選挙に向けた野党・民主党の候補者選びの初戦となったアイオワ州党員集会では、集計ミスの影響で依然として暫定的な結果にとどまっているが、ブティジェッジ前サウスベンド市長とサンダース上院議員とが首位をほぼ分け合っている状況だ。前者は中道派、後者は左派である。上位4位まで見ても、中道派と左派が票を分け合う形となっている。米国全体が左派と右派とで大きく分裂した状態にあるが、左派の民主党内もこうして大きく分裂しており、まさに2重の分裂の構図にあると言える。

金融市場は、左派のサンダース氏、あるいはウォーレン氏が大統領に就任することを強く警戒している。両者はともに、国民皆保険、公立大学無償化、学生ローンの返済免除、再生可能燃料への急激なシフトとフラッキング(水圧破砕法)の禁止を約束しており、掲げた経済政策は似ている。

しかし、自らを「民主社会主義者」と呼ぶサンダース氏の方が、より大きな政府につながる政策構想を持っている。投資調査会社コーナーストーン・マクロの推計によると、両者の政策構想を実現するのに必要な増税額は、10年で約28兆ドル(約3,080兆円)程度とほぼ同額だ。しかし、財政支出については、サンダース氏の政策構想の方がウォーレン氏の2倍となる6兆ドル程度かそれ以上になると試算されている。仮にこれが実現すれば、GDPに占める政府の規模は米国で大幅に拡大し、スカンジナビア諸国の水準に近づく。

大統領選は僅差で勝敗が分かれる可能性が高い

米国はまさに真っ二つに割れていることから、11月の米大統領選は接戦になる可能性が高い。そのため、金融市場の不確実性が解消できない状態が、選挙当日まで続くことになるのではないか。

過去30年の大統領選を見ても、4ポイント以上の差を付けて勝利した大統領は2人しかいない。いずれもやや特殊な状況下で選出された例外的な事例でもある。第1は、ビル・クリントン氏が勝利した際であり、無所属で出馬したロス・ペロー氏が旋風を巻き起こしたためだった。第2はバラク・オバマ氏が圧勝した際であり、これは2008年の世界金融危機の発生という異常事態がそれを後押ししたのである。

予備選挙を制して民主党の大統領候補に決まると、その人物は大統領本選を見据えて、民主党の強い支持層ではない中間層の取り組みに奔走することになる。民主党大統領候補が左派のサンダース氏、ウォーレン氏である場合には、中間層を取り込むために現在の左派色の強い政策構想をある程度修正する可能性があるだろう。

それがどの程度、中間層の取り組みに貢献するかを見極めてからでないと、大統領選挙の行方は展望できない。つまり、現時点でトランプ大統領の再選の可能性を占うことはあまり意味がないだろう。

薄れる大統領選の結果と経済環境との関係

ところで、従来は、大統領選挙の結果、特に現職が再選される可能性を占う際には、経済環境が非常に注目されていた。しかし、そうした選挙結果と経済との関係は薄れてきているようだ。実際、トランプ政権下で経済環境は次第に悪化してきたが、それがトランプ大統領の支持率に目立った悪影響は与えていないように見える。

ジョン・サイズ氏、マイケル・テスラー氏、リン・バブレック氏の3人の政治学者は、ジョン・F・ケネディ大統領からジョージ・W・ブッシュ(子)大統領までの政権期間中に、消費者信頼感と大統領支持率が正の相関関係にあったと結論付けている。しかし、そうした明確な相関関係はバラク・オバマ大統領の政権下で消え、トランプ氏就任後においても見られなくなったという。

その背景には、与党の支持者は経済環境を比較的良好と評価し、野党の支持者は経済環境が良くないと判断する傾向が強いことがあるようだ。共和党支持者は、オバマ氏が大統領だったとき、一貫して経済状況を民主党支持者より悪く評価していた。こうした共和党支持者の姿勢は、トランプ氏が選出されると、一夜にして逆転したのである。

つまり、経済環境の評価は支持政党によって決まる傾向が強まり、経済環境の評価が支持政党を決めるという関係は薄れてきているようだ。

金融市場の大統領選挙見通しは今後も大きく振れる

最近の世論調査でも、米国が直面する最大の問題として「経済」を取り上げた回答はかなり低くなっている。2016年の大統領選挙で、トランプ氏が共和党の予備選期間中に支持を集める上で重要だったのは、「経済」よりも「人種、民族、宗教」だった。先日の一般教書演説の中でトランプ大統領は、失業率が50年ぶりの低水準にあるなど、経済環境の良さを強調し、経済を大統領再選戦略の中心に据えた。しかし実際には、トランプ大統領自身が、経済を大統領選の中心課題から外れる傾向を強めた張本人なのである。

こうして考えると、経済見通しも含めて、11月の大統領選挙の結果を現時点で占うことはあまりにも時期尚早である。このことは、大統領選挙の結果に関する金融市場の見通しが今後も大きく振れる状態が続き、それは市場のボラティリティを高めやすいことを意味するだろう。

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