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世界が注視するクルーズ船での日本の新型肺炎対応

2020/02/17

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日本政府のダイヤモンド・プリンセス号への対応に海外から批判

新型肺炎問題に関連して、クルーズ船への日本政府の対応に海外から批判が高まっている。

2月3日に横浜港に到着したクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号は、香港で下船した男性が感染していたことが分かり、乗客乗員約3,700人を乗せたまま横浜港に停泊を続けた。その間に、感染者数は350人以上に広がっている。

米国内では、船内での感染拡大を防げなかった、あるいは乗客に過酷な生活環境を長く強いているとして、日本政府の対応に批判が高まっている。こうした世論に配慮して、米国政府は乗船する約380人の米国民と家族をチャーター機で帰国させる方針を決め、既に移送中である。ただし、チャーター機で帰国しても、14日間は米軍基地内に隔離される。米国への移送中に感染するリスクもあること等から、帰国を拒む米国人乗客も出ているという。

また、ロシア外務省も10日に、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号での日本の対応は混沌として場当たり的だ、と強く批判している。ダイヤモンド・プリンセス号には、子ども2人を含む24人のロシア国籍の乗客が残っている。

クルーズ船の受け入れ拒否にも批判

他方で、日本政府が別のクルーズ船の受け入れを拒否したことも、海外からの批判を招いている。日本人5人を含む約2,200人を乗せたオランダ籍のクルーズ船「ウエステルダム号」について、日本政府は6日、「船舶内で新型コロナウイルスの感染症を発症した恐れのある人が確認された」として、出入国管理法に基づき入国を拒否した。また国土交通省は、沖縄・石垣港への入港を自粛するよう要請した。

同クルーズ船は、接岸できる港を見つけられないまま1週間余りにわたって洋上をさまよった末に、3日、カンボジアの南部のシアヌークビル港沖に到着し、14日から一部乗客の下船が始まった。

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は12日に、「科学的な証拠に基づいたリスク評価をしていないことが多い」と、日本を含む幾つかの国がクルーズ船の受け入れを拒否したことを問題視する発言をしている。

クルーズ船での新型肺炎対策で国際ルールが欠如

クルーズ船での新型肺炎対策では、国際法・ルール上の制約があることや、明確な規定が存在しないことが、政府の対応を難しくしている面がある。

ダイヤモンド・プリンセス号は英国船籍であるため、いわゆる旗国主義に基づいて、日本の領海に入るまでは英国の法律が原則適用される。そのため、日本政府は当初、感染防止のための措置を取れなかった。WHOが1月30日に緊急事態を宣言した後も、船内ではパーティーが開かれるなど、感染防止策が十分に取られていなかったという。

ダイヤモンド・プリンセス号の乗客乗員すべてを入国させて病院に収容、検査、隔離を行うには、病院、医療関係者などのキャパシティの制約がある。ここに多くのリソースを投入すれば、国内での新型肺炎対策全体が疎かになる可能性もあるだろう。また、その負担の多くは日本国民の負担となる。これを、乗客乗員の構成に応じて各国間で負担を分けるといったルールは、今は存在しない。

外国からの船の入港には、日本では、検疫、出入国、港湾の管理で三つの役所がかかわっている。入港の是非の判断をするのは港湾を所管する国土交通省とみられる。ダイヤモンド・プリンセス号を横浜港に受け入れる一方、ウエステルダム号の受け入れを拒否した背景、すなわち判断の分かれ目について国土交通省は、明確な決まりはなく事案に応じての判断、としている。他方、船籍や自国民の割合で、国が対応するかどうかを考える、との説明もしている。

新型肺炎対策での各国間の協調に悪影響が及ばないように配慮も

ダイヤモンド・プリンセス号では乗客のおよそ半分が日本人だったのに対し、ウエステルダム号では、乗客およそ2,200人のうち日本人はわずか5人であったことが、対応を分けたのだろう。日本人に対する新型肺炎対策に人的・物的資源と資金を優先的に割くべきというのは、日本国内での一般的な世論でもあるのではないか。しかし、自国最優先の対応は、人道的視点に基づいて他国からの批判を浴びる。

寄港地が定まらずにクルーズ船が海をさまよい続ければ、新型肺炎の感染ではなく、食料、医薬品等の不足などから乗員乗客の人命に危機が及ぶ可能性も出てくる。

国際法上の規定がないクルーズ船での感染症対策については、人道上の観点から、国毎の責任のあり方や費用負担などに関して、ルール作りを進めることが喫緊の課題となろう。また正式なルールを定める前にも、現時点で各国が話し合いで協調体制を確認しておくことが必要だ。

クルーズ船への対応を巡って各国間で不信感が強まる結果、それが、新型肺炎対策全体での各国間の協調体制にほころびをもたらすような事態は、避けなければならい。

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