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中国戦略に見直しを迫る新型肺炎とアップル・ショックⅡ

2020/02/20

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新型肺炎の影響で「アップル・ショック」再燃

中国での新型肺炎の拡大は、生産、市場ともに中国への依存度が高いアップルのiPhoneに、当初の予想を上回る規模で大きな打撃を与えている。今後アップルは、生産拠点の分散など中国戦略の見直しを迫られるだろう。

アップルは、今年1月末時点では、1-3月期に前年同期比+9~15%の売上を予想していた。ところが2月17日になって突然、1-3月期の売上予想は達成できない、との見通しを表明したのである。

新型肺炎の拡大によって、中国でiPhoneの生産が滞り、品不足から米国を含め世界の市場での販売を悪化させる一方、中国国内におけるiPhoneの需要も落ち込んでいることが背景、とアップルは説明している。1月末時点では、新型肺炎の影響を過小評価していたのである。

アップルの売上高のうち、中国での比率は約17%に達している。アップルは、中国の状況は日々変化しているとして、新たな売上高予想を示すことができなかった。このことが、アップルが受けた影響が極めて大きいことを市場に印象付けた。

米国の主要企業の中で、アップルが初めて新型肺炎の影響を正式に発表したこともあり、このニュースは米国及び世界の株式市場に大きな打撃を与えた。2019年年初にも、中国でのiPhoneの販売不振などを理由に、アップルは売上高予想を引き下げた。これは、株式市場の調整と為替市場での急速なドル安円高などを生じさせ、「アップル・ショック」と呼ばれた、今回はその第2弾、「アップル・ショックⅡ」である。

「アップル・ショック」と米中貿易戦争は乗り越えたが

2019年の「アップル・ショック」の背景にあったのは、ファーウェイなど中国スマホメーカーとの激しい競争に晒された結果、中国でのiPhoneの販売が減速したことだった。米調査会社IDCの推計によると、18年10-12月期にはiPhoneの世界販売台数が前年同期比12%減少した一方、ファーウェイの販売台数は44%増と急拡大し、確かに明暗を分けていた。

しかし、「アップル・ショック」で一時10%程度下落したアップルの株価は、その後は2倍あまりに跳ね上がった。「iPhone 11」やワイヤレスイヤホン「エアポッズ」など新製品の好調な売れ行きがその背景にあった。

さらにアップルは、米中貿易戦争という逆風も乗り越えてきた。アップルのCEO(最高経営責任者)のクック氏は、トランプ大統領を説得して、iPhoneを追加関税の対象品目から外させ、深刻なダメージを回避したのである。今回の新型肺炎は、米中貿易戦争よりも深刻な影響をアップルに与えるはずだ。

今度はアップルも生産拠点の多様化を検討か

ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、生産拠点を多様化してこなかったアップルも近年は、iPhoneの組み立てをベトナムなど中国以外の場所で行うことを検討したという。しかし、設備やトレーニングコストが高すぎることから、それは実現しなかった。アップルは現在一部のiPhoneをインドで製造しているが、ほとんどがインド国内販売向けだという。米国で販売されるiPhoneの大半を中国で生産するというアップルの方針は変えていない。

ちなみに、販売台数で世界1位のスマホメーカーである韓国のサムスン電子は、昨年、中国でのスマホ生産を段階的に打ち切って、インドやベトナムなどに1年をかけて移行していった。

今回の新型肺炎を受けて、アップルも今度こそは、中国一極集中の生産体制を見直して、本格的に分散化を検討する可能性があるのではないか。

米国への生産回避を期待するトランプ政権

こうした動きは、米国経済・企業の中国依存度を引き下げることを狙っているトランプ政権にとっては、歓迎すべきことだろう。

ロス商務長官は、「新型肺炎は、米企業がグローバルサプライチェーンを見直し、生産拠点を米国内に回帰させるきっかけとなる。それは、米国の労働者が職を取り戻すことにもなる」、との主旨の発言をしている。ロス商務長官は、トランプ大統領の意見を代弁したつもりだったのかもしれないが、新型肺炎が米国にとって好機であると言わんばかりのこの発言は、多くの感染者と死亡者を出している中国に対する配慮が足りない、として米国内でも強い批判が出た。

ただし、新型肺炎の拡大が、グローバルサプライチェーンの脆弱性を浮き彫りにしたことは確かであり、それが企業に生産拠点の分散化を促す大きなきっかけとなる可能性は否定できないところだ。アップルのように、中国で製品を生産し、それを中国と米国などその他の国で販売する企業は、「世界の工場」としての中国と「世界の市場」としての中国の双方に強く依存している。その結果、新型肺炎の影響で2重の被害を被ってしまったのである。特にそうしたタイプの企業では、今後、グローバル生産・販売戦略の大きな見直しが促されやすいだろう。

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