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統合後の地銀への金利監視:その背景と問題点

2020/02/21

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統合後の地銀の貸出金利が上がる状況ではないが

報道によれば、政府は統合・合併で融資のシェアを高めた地方銀行が、取引先企業や個人に対して強くなった立場を利用して、不当に貸出金利を上げることを禁じ、それを法律に明記して違反する地銀には業務改善を求めるという(2月17日付、日本経済新聞朝刊)。これは、やや違和感のある内容だ。地銀間の競争激化を背景にその貸出金利は低下傾向を辿っており、融資のシェアの上昇が貸出金利の上昇につながるような環境とは到底思えない。

この規定の背景には、今国会で成立予定の、特定地域での銀行の統合・合併を10年間、独占禁止法の適用除外とする特例法がある。2020年10月1日に実施される長崎県の親和銀行を傘下に持つふくおかフィナンシャルグループと十八銀行との統合では、同県での融資シェアが高まることを警戒する公正取引委員会(公取委)が長らく統合を認めなかった。この間、統合を通じて地銀の存続、経営改革、再編を目指す金融庁と公取委との間に激しい対立が生じたのである。

最終的には他行への貸出譲渡を通じて融資シェアの上昇を抑えることで、公取委は統合を認めた。一方で、統合を通じて地銀の再編を後押しするという金融庁の意見を取り入れる形で、政府は上記の独占禁止法の特例法を成立させようとしている。

金利監視の法規定は独占禁止法の特例法とのバランスで適用

長崎県での地銀の統合を巡る議論の中で、公取委は統合による融資シェアの上昇が貸出金利の上昇をもたらし、それが顧客に不利益をもたらすと主張していた。金融庁は、統合による融資シェアの上昇は、貸出金利の上昇につながらないどころか、むしろ貸出金利の低下につながる、と主張した。さらに、仮に貸出金利の上昇につながる可能性があるとしても、それは金融庁が統合後に監視を続ければ回避できると主張していた。これが、今回の、金利監視の法規定につながっている。

報道によれば、この金利監視を金融庁は、当初、監督指針や政省令に盛り込む方針だったという。喧嘩両成敗ではないが、独占禁止法の適用除外とする特例法で事実上譲歩を強いた公取委に配慮し、バランスを取る観点から金利監視の法規定を政府は決めたのだろう。あるいは、政府に対して公取委からの働きかけがあったのかもしれない。

いずれにせよ、金利監視の法規定が特例法とバランスをとる観点から導入されるのであれば、その実効性はほぼないのではないか。金融庁は、統合後に地銀が貸出金利を顕著に引き上げることなど想定していないだろう。

むしろ統合後の地銀の貸出金利引き下げに注意

長崎県での地銀の統合を巡る議論がなされていた2017年1月に、金融庁金融研究センターは、「地域金融市場では、寡占度が高まると貸出金利は上がるのか」と題した論文を発表した。寡占度が高まることで貸出金利が上がるという考え方、いわゆる市場構造成果仮説が一方にある。同時に、寡占度が高まることによって規模の経済が働き、経営効率が高まって貸出金利の引き下げ余地が生じ、実際に貸出金利は下がる、という効率性仮説もある。お互いに矛盾した2つの仮説が存在しているのである。

同論文では、実証分析の結果を踏まえて、市場構造成果仮説の効果よりも効率性仮説の効果が大きく、金利は下がると結論付けている。論文では2010年度から2015年度のデータで分析がなされている。それ以前の長いデータを用いて分析していたら結論は違っていた可能性はあるが、現時点では、この分析結果が実情を示しているだろう。また、金融庁の見解は、今でもこの通りだろう。

統合によって経営効率が高まった地銀は、貸出金利の引き上げどころか、むしろその余力を貸出金利の引き下げに使って、貸出シェアの上昇を図る可能性もあるのではないか。その場合には、地銀間での貸出金利引き下げ競争がより激化し、一段の収益悪化から金融システムを不安定にしてしまうだろう。これは、顧客にも不利益をもたらすものだ。この点から、統合後の地銀の貸出金利引き上げではなく、むしろ貸出金利引き下げの方を金融庁はしっかりと監視すべきではないか。

他方、将来的には、資金需要が回復して貸出金利を引き上げて収益環境の改善を図ることが可能な局面がやってきた場合でも、この金利監視の法規定があるがゆえに、地銀が貸出金利の引き上げに及び腰になってしまう可能性がある点が懸念される。

こうした観点から、金利監視の法規定についても、独占禁止法の特例法と同様に時限措置とすべきなのではないか。

 

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