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新型肺炎対策で必要となる国内法整備

2020/03/03

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政府は「新型インフルエンザ等対策特別措置法」改正を目指す

日本政府は、2月26日にスポーツやコンサートなどイベントの自粛を要請し、さらに27日には、全国一律に小中学校および高等学校の休校を要請している。こうした要請には、法的根拠はない。いずれの要請も国民生活に大きな影響を与えるものだが、それらが法的根拠なく出されたことが問題視されている。日本が法治国家である以上、それは当然のことだろう。そこで、やや後追いとなるが、政府はこうした要請の根拠となる法整備に着手しているのである。

注目されているのが、2012年に制定された「新型インフルエンザ等対策特別措置法」だ。2009年に世界的に流行したH1N1亜型インフルエンザウイルスへの政府の対応が混乱したことが、同法制定のきっかけとなった。

同法のもとでは、国民生活・経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある場合に、首相が緊急事態を宣言できる。その際、都道府県知事は学校、映画館などの使用制限や、イベント中止を指示できる。

同法は、新型インフルエンザ以外にも、感染症が広く対象とされている。そこには、エボラ出血熱、SARS(重症急性呼吸器症候群)、MARS(中東呼吸器症候群)等も含まれているが、新型コロナウイルスによる肺炎は含まれていない。

そこで政府は、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」を改正することで、新型コロナウイルスによる肺炎を同法の適用対象に含める方向だ。政府は、今月末までに改正法案を成立させたいとしており、与野党に協力を呼びかけている。野党も同法の改正には総じて賛成の姿勢であり、迅速に法改正がなされることが予想される。

企業や個人の私的権利の制限は最小に

おそらく、適用対象の拡大以外には、改正によっても現在の「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に大きな修正は加えられないだろう。その場合、同法には罰則規定はないことから、法的根拠を持たない現在の政府によるイベントの自粛や休校の要請と比べて、改正後の要請も実質的には大きな違いはないように見える。

ただし、法的根拠に基づく要請となれば、それによって生じる企業、個人の損失分は政府が支援してくれるとの期待が高まること等から、企業、個人の要請受け入れ姿勢が積極化し、より実効性が強まることが期待できるかもしれない。

他方、法的根拠に基づく緊急事態宣言が発動されれば、政府はより思い切った措置をとることもできる。例えば、施設の利用制限に従わない企業名を公表することができる。また、臨時の医療施設の開設のために土地や建物を強制使用することも可能となる。

これらは、企業や個人の私的権利をかなり制限することになるだろう。そのため、感染症の蔓延防止といった同法の基本目的に照らして、最小限度の私権の制限に留めることが求められる。

また、改正法の適用によって、企業や個人の権利が不当に制限されることがないよう、生じ得る各種問題点などについては、国会でしっかりと議論をして欲しいところだ。また、法改正後の適用については、国会や国民が監視の目を光らせておくことも重要だろう。

マスク不足で浮き彫りになった市場経済の脆弱性

国民生活に大きな打撃をもたらしており、政府による積極的な関与が広く期待されている問題に、マスク、消毒剤、あるいはトイレットペーパーなど特定物資の深刻な品不足がある。

政府は当初、企業に対して補助金を与えることでマスクの増産を図ったが、現在のところ、品不足は解消されていない。これは、品不足への不安から一部の消費者が買い急いでいることの影響や、個人あるいは業者が高値での転売目的で商品を買い占めていることが影響している。

新型肺炎に関連して生じている深刻な品不足への対応も、政府にとって喫緊の課題の一つである。しかし、これについては、新たな法整備は必要なさそうだ。それは、「生活関連物資緊急措置法」という法律を適用することで、対応できる。同法は、1973年に起きた第1次オイルショックで、深刻なトイレットペーパー不足が生じたことから制定されたものだ。

買い占めや売り惜しみをしている事業者に調査や指導を行ったり、物価の高騰を受けて標準的な価格を設定したりすることが必要な事態と政府が認めれば、同法に従って様々な取り締まりが可能となる。

特定物資を大量に保有する事業者には、時期と数量を特定した上で政府が売渡しを指示できる。その売渡先も指示できることから、政府が商品を買い上げることも可能となるのだろう。そして、政府の売渡し命令に従わなかった者は、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処される。

実際、政府はマスクを買い上げることを検討している。また、政府が同法の下で不足物資の標準的な価格の設定に影響力を行使できるのであれば、先行き販売価格が低下するとの期待を生み出すことで、企業あるいは個人の買い占め、買いだめ行動をかなり抑えることもできるのではないか。

マスクを中心とする深刻な品不足は、常に円滑に商品が生産、流通されるという信頼感が前提となる市場経済の脆弱性を再確認させるものとなった。新型肺炎という不測の事態は、そうした制度の弱点を浮き彫りにしたのである。そしてそれは、政府の強い関与という一種の統制経済制度の導入を一時的に許すことにつながってきた。それは必要な措置ではあるが、できるだけ早期の問題解決を通じて、一時的な措置で終わらせることが重要だ。

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