フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 新型コロナウイルス中心地の中国株がなぜか世界最強

新型コロナウイルス中心地の中国株がなぜか世界最強

2020/03/06

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新型コロナウイルス中心地である中国本土株が最も堅調

新型肺炎の影響で、世界的に株価が大幅に下落する中、主要市場の中で最も堅調なのは、実は、新型肺炎問題の中心地である中国だ。3月5日時点で日経平均は年初から10%近くの下落、米国のダウ平均は5%近くの下落となっている一方、中国本土(上海・深セン)の平均株価指数、中国CSI300は年初から+2.7%の上昇と、主要な株式市場の中で最も上昇しているのである。

中国CSI300は、政府が大規模な隔離政策を始めた1月23日に暴落したが、その後は、緩やかに回復してきた。特に、3月に入ってからは上昇ペースが加速している。3月5日の水準は、新型肺炎の悪影響が認識される前の1月中旬の水準を上回り、驚くことに、2018年2月以来2年ぶりの水準にまで戻している。

2月の中国製造業購買担当者指数(PMI)が、過去最低水準まで悪化しているなど、中国経済は2008年のリーマンショック(グローバル金融危機)以来の悪化となっている。そうした中でも株式市場が楽観的になっている背景には、金融緩和やインフラ投資など政策効果への期待があるからだろう。

統計精度の問題はあるが感染者増加数は顕著に低下

しかし、それ以上に中国の株式市場に好影響を与えているのは、中国国内での新型コロナウイルスの感染者増加数が顕著に低下していることだろう。中国国家衛生健康委員会の発表によると、3月3日の中国本土での新たな感染者は119人と、前日の125人から小幅に減少した。2月半ば以降、感染増加者は減少傾向で推移している。

また、新たに感染した患者数よりも回復した患者数の方が圧倒的に多く、一時点での感染者総数は着実に減少している。同委員会によると、今まで新型コロナウイルスに感染していると正式に診断された患者の約62%が、今では回復し、退院しているという。

中国当局が感染者の定義を修正したことなどから、統計の精度への疑いは拭えない。しかし、極めて精度の高い検査手法で全数検査をしない限り、国民の間での感染の全容を掴むことはできない。この点から、世界中どこでも確実な感染者数の統計は存在していないはずである。

しかし、必ずしも精度が高いとは言えない統計からも、大まかな流れを捉えることはできるはずであり、中国で感染者の増加ペースが顕著に低下している可能性はやはり高いのではないか。

経済活動正常化への動き

現時点での中国経済は、どこの国よりも悪化していることは確かだ。しかし、感染者の増加ペースで見れば、どこの国よりも早くピークが見られ始めている。

もちろん、今後再び増勢を高めるリスクには引き続き注意が必要ではあるが、中国本土株が他国の株式市場よりもパフォーマンスが良いのは、「感染者の増加ペースにピークが確認されることで経済活動を制約している様々な政策が早晩解除され、また消費者の感染への警戒感が薄れていく中で、中国経済が最も早く回復する」との市場の期待を反映しているのではないか。

中国の習近平国家主席は4日、新型コロナウイルスの感染拡大について「予防と抑制の状況は持続的に良くなっている」と表明した。政府は、湖北省以外では警戒レベルの引き下げを拡大させており、経済活動の正常化を加速させる狙いだ。

日本は政府の緊急事態宣言を可能とする法改正

ところで日本では、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた新型インフルエンザ対策特別措置法を改正する議論が進められている。総じて野党の協力を得られていることから、与党は13日の法案成立を目指している。改正法案が施行されれば、政府は私権制限を伴う緊急事態宣言を発令できる。

政府は2月26日にスポーツやコンサートなどイベントの自粛を要請し、翌27日には、全国一律に小中学校および高等学校の休校を要請した。しかし、こうした要請には、法的根拠はなかった。国民生活に大きな影響を与えるこうした措置が、それらが法的根拠なく出されたことは問題だ。日本が法治国家である以上、それは当然のことだろう。

そこで、後付けとなるが、政府はこうした要請の根拠となる法整備に着手したのである(当コラム「新型肺炎対策で必要となる国内法整備」、2020年3月3日)。

米国でも、新型ウイルスによる死者が州内で初めて出たカリフォルニア州は、3月4日に非常事態宣言を発令した。同州内では、2月下旬にはサンフランシスコ市、同じ3月4日には、ロサンゼルス市を含むロサンゼルス郡も、非常事態を宣言した。ワシントン州とフロリダ州は、先週末に非常事態宣言を発令している。

民主主義国家は中国ほどの強硬策はとれない

しかし、日本では、新型コロナウイルスへの法整備が進んでも、個人や企業の私的権利の制限は最小限に抑えることが求められるため、それほど極端な政策はとれない。米国でも、政府が企業活動に介入するのは必要最小限であることが、国家理念として求められている。

ところが、中国では、武漢市やその他の都市を突然閉鎖し、人々から交通手段を奪って人の移動を強く制限した。さらに、企業に工場の閉鎖を命じた。こうした強硬策は、企業や個人の権利をかなり制限することになったが、それによって、比較的早期に感染拡大を抑え込むことができる可能性が出てきていることは確かなのではないか。

日本などの民主主義国家では、非常時においても政府が企業や個人の権利を制限することには限度がある。思い切った感染封じ込め策は、日本などとは体制の異なる中国だからこそ実現できた、という面があるのではないか。そうした政策の良し悪しの評価は別にして、それが事実なのではないか。

中国は「Ⅴ字型回復」、他の国は「U字型回復」となる可能性も

今後、中国では、感染者拡大の終息に伴い経済活動が回復し、いわば「Ⅴ字型回復」を見せる可能性もあるように思われる。

それとは対照的に、中国ほど思い切った封じ込め策ができない他国では、感染者拡大の終息までにかなりの時間を要するのではないか。また経済活動については、中国ほどの感染拡大防止の強硬策がとられないことから、その悪化の程度は中国と比べれば相対的には軽微であるが、他方で回復までには手間どい、底這い状態が長く続く「U字型回復」となる可能性も考えられる。いわば「2スピード」である。

事態は未だ流動的であり、中国の情勢もなお楽観を許さないが、少なくとも、世界で最も堅調な中国本土株は、そのような将来を展望しているのではないか。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn