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トランプ大統領が国家非常事態を宣言

2020/03/16

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国家非常事態宣言で米国株は過去最大の上昇

米国時間13日(金)に米トランプ大統領は、国家非常事態を宣言した。米国時間11日にトランプ大統領が発表した、欧州からの入国制限を柱とする新型コロナウイルス対策は、市場に大きな失望をもたらし、また先行きの経済への不安を増幅してしまった。その結果、米国時間12日のダウ平均株価は10%の下落と、1987年のブラックマンデー以来最大の下落幅を記録した。

国家非常事態宣言は、混乱した金融市場の安定回復を狙って打ち出されたものだ。さらに、新型コロナウイルス問題に対して楽観的な発言を繰り返していたトランプ大統領に対して、その認識の甘さと対応の遅れへの批判が国内で高まっていた。そこで、こうした批判を受けて、トランプ大統領が国内での新型コロナウイルス対策に本腰を入れて取り組む姿勢を国民にアピールする狙いも、国家非常事態宣言にある。またこれは、大統領選挙対策でもあるだろう。

トランプ大統領がようやく国内での新型コロナウイルス対策に本腰を入れて取り組む姿勢を見せたことが評価され、米国時間13日のダウ平均株価は過去最大の上昇幅となった。さらに、13日のドル円レートは、東京時間の105円台から米国時間には108円台まで一気に上昇し、市場のリスク回避傾向が緩和された。

ただし、米国の国家非常事態宣言によって、金融市場の動揺が止まることは考え難く、不安定な状況はなお続くだろう。

最大500億ドルの対策

米国の国家非常事態宣言は、災害など国家の運営の危機に対して、迅速な対応をとる必要に迫られた際に、大統領が宣言するものだ。過去には、2001年の同時多発テロ発生の際、2009年の新型インフルエンザ拡大時に出され、そして昨年には、メキシコとの国境沿いの壁の建設を議会の承認を経ずに進めるために、トランプ大統領が奇策として国家非常事態宣言を出し、その正当性が強く問われた。

今回の非常事態宣言は、自然災害などの際、連邦緊急事態管理庁(FEMA)の権限を強め、州政府などを支援できるようにするスタフォード法に基づくものだ。FEMAに計上されている災害対策予算を含めて最大500億ドル(約5兆4,000億円)の連邦予算が、ウイルスの感染拡大の防止に向けた各州や自治体の取り組みに活用できるようになる。

また記者会見でトランプ大統領は、「今後8週間が極めて重要だ」と述べ、企業の検査装置の承認基準を緩めるなどして、遅れが批判されていた新型コロナの医療・検査体制を早急に整える考えを明らかにした。「1か月以内に500万件の検査が可能になる」という。ウイルスの検査能力の不足によって感染者の把握が遅れたとの批判に対しては、「私の責任はまったくない」とトランプ大統領は強気を通した。

これ以外にトランプ大統領が明らかにした新型ウイルス対策は、米保健福祉省の医療規制を緩和して、医療施設の病床数拡充や遠隔診断、大型小売店での駐車場を利用したドライブスルー型検査などだ。

経済対策としては、連邦政府が提供する学生ローンの利子払いの免除、原油価格急落で経営に打撃を受ける石油業界への支援策として、米国産原油を戦略備蓄用に購入すること、航空業界やクルーズ船など、新型コロナ流行で打撃を受ける産業への支援を行うこと、などの考えを明らかにしている。

市場、選挙は新型ウイルス対策の結果を問う

さらに、トランプ政権と米議会下院は13日に、新型コロナウイルスの経済対策で合意に達した。上下両院での可決、トランプ大統領の署名を経て、来週にも成立する見通しである。この経済対策には、新型コロナの検査無料化や、2週間の有給病気休暇などが盛り込まれる。他方、トランプ大統領が実施を望んでいる給与税の減税では、議会との間の調整が進まずに、この経済対策には盛り込まれなかった。

危機モードに入った金融市場は、政策当局者の問題解決に向けた強い姿勢を評価する傾向がある。さらに現状では、FRBの緊急利下げ後の金融市場の悪い反応にも表れているように、中央銀行の金融緩和よりも、政府による新型コロナウイルス対策、財政出動策により期待しているように見受けられる。

ただし、金融市場は、こうした政策当局者の強い姿勢、本気度から、政策の実効性に次第に厳しい目を向けていくことになろう。トランプ政権の対策についても、それが新型コロナウイルスの封じ込めや経済の安定維持にどの程度の実効性を発揮するか、を見極める局面にいずれ入っていく。仮に、トランプ政権が新型コロナウイルスの封じ込めに手間取い、経済が悪化を続ける場合には、金融市場は動揺し、さらに実効性の高い政策を催促することになる。

他方、同様の事態となれば、トランプ大統領の再選にも強い逆風となるだろう。金融市場、有権者ともに、政策の実効性、成果を最終的には問うことになる。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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