フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 緊急事態宣言は出されるか

緊急事態宣言は出されるか

2020/03/17

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新型インフルエンザ対策特措改正法が成立

新型インフルエンザ対策特別措置法(特措法)の対象に、新型コロナウイルスによる感染症を加える改正法が、13日の参院本会議で成立した。もともと同法の対象に未知の「新感染症」は含まれていたが、新型コロナウイルスが未知か既知かが明確でないとして、政府は同法の改正を目指してきた。

同改正法では、緊急事態宣言を発令するには、1)国民の生命や健康に著しく重大な被害を与えるおそれがある、2)全国的かつ急速なまん延により国民生活と経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある、の2要件を満たす必要があると定められている。

緊急事態宣言が発令されれば、都道府県知事が国民、企業に対して様々な要請をすることができる。

個人の自由を過度に制限するリスクも

緊急事態宣言が発令されれば、政府は新型コロナウイルス封じ込めに向けた対策をより強化することができる。感染の急拡大など、事態がより悪化することに備え、新型コロナウイルスに対しても緊急事態宣言を発令することができるように新型インフルエンザ対策特措法の改正を行ったことは妥当だ。

しかし、同改正法では、個人や企業の権利を制限する「私権制限」が発生する点には、最大限の配慮が必要だ。緊急事態宣言が発令されれば、都道府県知事が住民に外出自粛、学校の休校、イベント自粛などを要請できる。さらに食料品・衣料品の売り渡し、運送業への物品輸送、医療目的での土地・施設利用を強制することも可能となる。

この点から、緊急事態宣言は、日本国憲法21条に規定される、集会の自由・結社の自由・表現の自由、といった、国民の基本的な自由の権利を侵害してしまう恐れがある。緊急事態宣言の発令は、非常事態下での一時的な措置に厳格に限られることが必要だ。改正法5条には「必要最小限のものでなければならない」と定められてはいるが、これでは過度な私権制限リスクの排除には十分でないだろう。

こうした点を踏まえると、新型インフルエンザ対策特措改正法はやや拙速に成立されてしまった感がある。私権制限は、国会審議の中で野党が指摘してきた問題点ではあったが、同改正法はそのリスクを十分に抑える内容にはならなかったのではないか。国民が新型コロナウイルスへの警戒を強める現局面で、仮に改正法に反対の姿勢を続けると、国民からの強い批判を受けることを野党は恐れたのかもしれない。

3つのプロセスで透明性を

緊急事態宣言の発令とその後の運用に主に関わるのは、発令を決める首相と運用する政府、首相の判断に影響を与える専門家による諮問委員会、緊急事態宣言発令の妥当性と発令後の適切な運用をチェックする国会の3者である。それぞれの判断、行動に、高い透明性を求めるべきではないか。

国会のチェック機能に関しては、野党の要求を反映して、同改正案に「やむを得ない場合を除き、国会へ事前に報告する」との付帯決議が盛り込まれた。しかし「国会への事前報告」では、国会のチェック機能としては十分ではないように思われる。そもそも付帯決議では、法律的な拘束力もない。当初、野党が主張していた、「国会の事前承認」が必要だったのではないか。

また、緊急事態宣言発令の2要件については、曖昧だとの批判が多い。ただし、この先、様々な感染症に対して、また様々なシチュエーションのもとで緊急事態宣言発令の是非の判断を首相が迫られることを考えれば、法律の条文で発令の条件を特定し過ぎるのは妥当ではないのだろう。

しかし、現在の新型コロナウイルス対策に限って、緊急事態宣言発令の要件がどのようなものであるのか、政府は現時点での判断基準を、国会及び国民に示すべきではないか。

さらに発令は、感染症の専門家による諮問委員会で意見を聞いた上で首相が決める。この諮問委員会と政府は、今の時点で緊急事態宣言発令の要件に関して議論をすり合わせ、それを予め公表しておくべきではないか。また、実際に首相が発令を決めた際には、その判断の根拠となった諮問委員会での議論と判断を、迅速に開示すべきではないか。

政府が2月下旬にイベント自粛や休校の要請を決めた際には、専門家の判断ではなく政府の判断で決めたと説明された。それに対して、科学的根拠がなかったと野党からは強く批判され、国民の間でもそうした意見は少なくなかったとみられる。この際の経験を十分に活かして欲しいところだ。

緊急事態宣言は出されるか

同改正法の成立を受けて、緊急事態宣言は発令されるのか、それはいつになるのか、についての関心が高まっている。

政府が2月下旬に出した学校の臨時休校やイベントの自粛は、法的根拠に欠くもので、政府の責任は明確でないことから、民間に「丸投げ」した、とも批判された。さらに法的根拠に欠く状態のもとでは、政府要請によって打撃を受けた人々や企業に対して政府が財政資金で支援することの法的根拠も曖昧であり、それが実際に支援の制約にもなってしまう面もあるのではないか。

そこで、こうした施策に後付けで法的根拠を与えることを政府は考えている可能性がある。仮にそれが正しい場合、新型インフルエンザ対策特措法改正の政府の最大の狙いは、緊急事態宣言の発令にあることになる。

同改正法成立に先立って政府は、現時点ではただちに緊急事態宣言を出すような状況にはない、との説明を繰り返しているが、実際には、比較的早期に緊急事態宣言が発令される可能性に注意しておく必要があるだろう。それは、感染の急拡大など、事態が急変しなくてもあり得ることだ。その際には、感染拡大の抑制に時間がかかっていることを、政府は緊急事態宣言の発令の根拠とするかもしれない。

国民の自由を強く制限しうる緊急事態宣言が、安易に発令されることのないように、また発令と運用が高い透明性のもとで行われるように、国会そして国民は、政府の動きをしっかりとモニターしておく必要があるのではないか。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn