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ドル調達の不安は緩和されるか

2020/03/18

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主要中銀はドル調達難の対策を講じた

日本時間の3月16日に、米連邦準備制度理事会(FRB)が緊急に実質ゼロ金利政策の導入と、資産買入れ策の再開を決めた。さらに同日、日本銀行が臨時会合を開いてETFの買入れ額を2倍にするなどの追加緩和措置を発表した。この2つの緊急措置が発表される間に、やはり緊急措置として公表されたのが、日銀、FRB、欧州中央銀行(ECB)など6中央銀行による、米ドル・スワップ取極を通じた流動性供給の枠組みの拡充策だ。

米ドルを供給する際の適用金利を0.25%引き下げるほか、定期的に米ドル資金供給を実施している中央銀行については、現行の 1 週間物に新たに3か月物を加える。FRBが従来よりも良い条件でドルを他の中央銀行に供給し、それを中央銀行が民間銀行に供給するのである。

中央銀行間でのスワップ取極がなされたのは、2008年のリーマン・ショック後に、米国以外の世界の銀行の間でドルの調達が一時的に難しくなる状況が生じたことがきっかけだ。ドルの調達難は、銀行経営を揺るがすとともに、ドル建ての輸入代金の支払いに支障が生じることで貿易が委縮し、実体経済にも深刻な打撃を与えた。

こうした経緯から生まれたスワップ取極が、今回拡充されたということは、世界では再びドル調達に支障が生じていることを意味する。

ドルの調達コストは3月に入って急上昇

ドルの調達の難しさ、ドル需要の逼迫の度合いを測る指標として日本でしばしば注目されるのが、ドル円の「ベーシス・スワップ・スプレッド」だ。これは、円とドルの変動金利同士を交換する取引(ベーシス・スワップ取引)の中、実際の銀行間金利の差から乖離している部分(上乗せ分、プレミアム分)を計算したものだ。それがドルの調達コストの指標となり、ドルの需給が強いほど、このスプレッドのマイナス幅が拡大する。

スプレッドのマイナス幅拡大が目立ち始めたのは、3月に入ってからだ。ブルームバーグのデータによると、1年物のドル円ベーシス・スワップ・スプレッドは、3月2日には-60bp(ベーシスポイント、1ベーシスポイントは0.01%)であったが、3月13日には-200bpにまで達した。2%もの金利を余分に払わないと、ドルを調達して1年間手元に置いておくことができなくなった。これはかなりの危機的な状況であったと言えるだろう。

金融市場あるいは金融システムが先行き不安定になるとの観測が広がると、世界の金融機関の間ではドルの調達を急ぐ動きが広がる。今ドルを調達しておかないと、先行き調達できなくなり、ドル建て負債の返済が滞る事態を招くこと等をおそれるためだ。そうした行動が、更なるドル需給のひっ迫とドル調達コストの上昇を加速させるのである。

必ずしも根拠はなくても、マスクやトイレットペーパーなどの生活必需品がいずれ手に入らなくなるとの不安が生じると、人々はそれを買い急ぐ。これが、実際に深刻な品不足を生んだり、高値での転売を生んだりする。ドル需給のひっ迫やドル調達コストの上昇も、こうした現象と似ている。

日本銀行は銀行へのドル供給を拡大

日本銀行は17日に、3カ月物と1週間物のドル資金供給オペを実施した。6中銀が日本時間16日にドル資金の流動性供給拡充を決めてから初めてのオペだ。新たに加わった3カ月物のドル供給は、302億ドル(約3兆2,000億円)の応札があり、全額が落札された。これは、リーマン・ショック直後の2008年12月2日以来の大規模な応札額だ。

日本銀行のドル資金供給オペは、市場でドルを調達するよりもかなり割安であるため、ドル資金供給オペに応札したいという潜在的ニーズは、銀行の間で非常に強い。

しかし、この枠組みは、銀行がドルの調達に支障が生じた場合のいわばバックストップ(最後の救済)という位置づけであるから、日本銀行は簡単にはこの枠組みを使わないように、銀行を誘導する。今回、応札額が大規模となったのは、日本銀行が応札を積極的に銀行に認めたからに他ならない。そうしたオペレーションを通じて、「ドルはいつでも調達できる」という安心感を銀行に与えることで、ドルの逼迫を緩和しようとしたのである。

ドル逼迫緩和に向けて追加策の必要も

ただし、米ドル・スワップ取極の枠組み拡充策と日本銀行のドル資金供給オペでのこうした姿勢とが、ドルのひっ迫状態を大きく緩和したようには今のところ見えない。先ほど見た1年物のドル円ベーシス・スワップ・スプレッドは、3月13日の-200bpから、16日も17日も-200bp前後でほぼ横ばいの状態を続けた。

ドルの調達難が、金融不安を招くことを警戒すれば、スワップ取極に基づくドル供給の枠組みを更に強化する措置が講じられる可能性はあるだろう。それは、例えば、3カ月物よりも更に長期のドル供給を行うことだ。また、日本では1週間に1回しかドル資金供給オペが実施されていないが、これを毎日行うことができるようにすれば、不測の事態に直面してもドルの調達が随時可能になることで、銀行の不安はかなり緩和されるのではないか。

奥の手としては、ドルの調達に行き詰まる銀行が出てきた場合には、日本銀行が保有する6.7兆円(3月1日時点)の外貨建て資産の一部を使って、銀行にドルを供給することも可能である。

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