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米国政府1兆ドルの経済対策を検証する

2020/03/18

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国民に最大1人千ドルの小切手を給付

トランプ政権は総額1兆ドル規模の大型経済対策を打ち出し、議会との調整を進めている。対策の内容についてその詳細は未だ明らかではないが、目玉となるのは、すべての国民への現金給付となる模様だ。トランプ大統領は、国民に小切手を支給する考えを示し、一人当たり最大で1,000ドルになる可能性を示唆している。

また、ムニューシン米財務長官は、2週間をめどに早急に国民に小切手を送ることを検討しており、議会指導部と協議していることを明らかにした。

それ以外には、乗客が激減している航空会社業界向けの約500億ドルの支援策が含まれる模様だ。また、給与税減税も含まれる。

更にムニューシン財務長官は、連邦政府は納税申告期限を現在の4月15日から延長すると発表した。納税者には90日間の猶予期間が生まれることになる。個人は最大100万ドル、企業は最大1,000万ドルの税金納付を無利息かつ罰則なしで90日間延期することを可能にする方針だ。

他方、ペンス副大統領は、新型コロナ患者の増加に備えて、野外病院を迅速に設置する考えを明らかにした。また、建設関連会社に対して、医療用マスクの購入を止めて保有分を病院に寄付するよう要請している。

先行き不安で貯蓄に回る部分が大きい

トランプ政権の経済対策の目玉が、国民への小切手給付であることは疑いがない。トランプ政権は、迅速に実施できるという点を最優先して、この施策を選択したのだろう。一般に景気刺激効果が期待されるインフラ投資の場合には、もともと地方政府による執行分が大きく、連邦政府レベルで拡大させることができる余地は大きくない。また、法人税、個人所得税、給与税などの減税策は連邦政府が実施できるが、実施までに相応の時間がかかってしまう。

トランプ大統領は、小切手支給額が一人当たり最大1,000ドルになる、と説明しているが、仮に一人当たり1,000ドル支給すると、米国の人口が現在3億3,200万人程度であることから、総額は3,320億ドル規模となる。経済対策総額1兆ドルの3分の1程度にあたる。

この3,320億ドルは、米国の名目GDP21兆4,290億ドル(2019年)の1.55%の規模である。しかし、仮に総額3,320億ドルの小切手を国民に支給しても、その分だけ消費が直接押し上げられる訳ではない。収入増加分の相当部分は、貯蓄に回ってしまうからである。

通常、経常的な収入である給与所得が増加すると、その増加分の半分程度は消費に回る。限界消費性向は0.5程度である。ところが、一時的な収入の場合には、貯蓄に回される部分がより大きくなり、限界消費性向はもっと小さくなる。加えて、国民の間で先行きの不安が非常に強い現状では、貯蓄に回される部分が通常よりもかなり大きくなるのではないか。

ターゲットを絞った生活支援が重要

例えば、総額3,320億ドルの小切手給付のうち、2割程度が消費に回るとした場合、GDPの押し上げ効果は0.3%にとどまる。大きな景気刺激効果とは言えないだろう。小切手給付は、巨額の財政資金を投入する割には、景気刺激効果は比較的限られる、いわばコストパフォーマンスの良くない政策、と言えるのではないか。

他方でトランプ大統領は16日に、新型コロナ感染拡大防止に向けた指針を強化して、10人以上の集会や不要不急の旅行、レストランやバーでの飲食を避けるように促している。更に、米国内の一部地域に旅行制限を設ける可能性も排除しないとして、居間で時間を楽しむよう、国民に促した。

こうした方針は、消費喚起目的としての現金給付策とは整合的ではない面があるのではないか。金はやるが使うな、と言うのに等しい感じもする。

この施策が消費喚起を目的とするのではなく、新型コロナウイルスの影響で生活基盤を失いつつある家庭に対する支援策、いわゆるセーフティネットの拡充を主として目指す措置なのであれば、そうした人たちにターゲットを絞って、小切手を給付すべきだろう。

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