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東京五輪の延期と深刻な景気後退の可能性

2020/03/23

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東京五輪の延期で2020年GDPは2兆円、0.36%低下

3月23日に安倍首相は、7月に開催する予定の東京オリンピック・パラリンピックの延期を容認する考えを初めて示した。中止をする選択肢はないとしているが、これで延期の流れは決まってきた感がある。

東京五輪が例えば1年間延期されることによって、今年の国内景気がその分悪化する訳ではない。しかし、期待されていた関連需要は、来年に先送りされてしまう。日本銀行は、東京五輪関連の特需を8兆円程度と推計しているが、そのうちかなり部分は、既にスタジアムの建設などによって支出されている。

延期によって失われる需要は、観戦者のチケット購入、施設運営・警備費などである。こうした需要について、東京都は東京五輪の直接的効果として、1兆9,790億円と試算している。この約2兆円分の需要が来年に先送りされることで、2020年の名目GDPは0.36%押し下げられる計算となる。

新型コロナウイルス関連での需要減少

新型コロナウイルス関連の諸要因によって2020年GDPが押し下げられる影響を要因別に概算すると、以下の通りとなる(それぞれ1年間続く場合の影響)。

  • インバウンド需要の落ち込み(海外観光客数前年比9割減);-0.81%
  • 中国経済の悪化(GDP4%下落);-0.24%
  • 中国以外の海外経済の悪化(GDP2%下落);-0.50%
  • 国内消費自粛(東日本大震災時の4倍);-1.67%
  • 東京五輪延期の影響;-0.36%

これら諸要因のうち、日本経済に大きな悪影響を及ぼしているのは、当初はインバウンド需要の落ち込みであったが、その後は中国経済の悪化、国内消費自粛へとその比重を移している。

今後については、欧米を中心に、中国以外の海外経済の悪化による国内経済へのマイナス効果が強まる局面へと入っていく。中国経済は1-3月期に前期比で大幅なマイナス成長となった可能性が高いが、4-6月期には回復が見込まれる。

他方で、米国では4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率で2桁のマイナスが広く予想されている。ユーロ圏でも4-6月期は大幅なマイナス成長が避けられない。そのため、日本の輸出環境は、しばらくは急速な悪化が避けられない状況だ。

国内産業で、現在最も大きな打撃を受けているのは、インバウンド需要の減少や国内サービス消費の自粛の影響を受ける、観光業、宿泊業、アミューズメント関連などであり、中小・零細企業が中心である(航空業界を除く)。

この先、国内での新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めが掛かってくれば、国内サービス消費の自粛の影響は徐々に和らいでいくだろう。それに代わって、より多くな打撃を受けるのは、大企業中心の輸出関連産業となっていくだろう。

リーマン・ショック時と同様に4四半期連続のマイナス成長

2019年10-12月期の国内実質GDPは、前期比年率-7.1%と大幅マイナス成長を記録した。新型コロナウイルスの影響を受ける2020年1-3月期も、マイナス幅は縮小しつつも、マイナス成長が継続する可能性は高い。

他方、欧米経済が4-6月期に急激に悪化する影響が、やや遅れて日本の輸出環境の一段の悪化に繋がる可能性を考慮すれば、7-9月期もマイナス成長となる可能性は高まっている。東京五輪が延期となれば、その可能性は一段と高まるだろう。

そうなれば、日本は4四半期連続でのマイナス成長を覚悟しなければならなくなる。リーマン・ショック(グローバル金融危機)後にも日本は4四半期連続のマイナス成長を記録したが、この点は今回も同様となるのではないか。

ちなみに、リーマン・ショックの影響で2008年度の実質GDP成長率は-3.4%、2009年度は-2.2%となった。2020年度の実質GDP成長率についても、2%~3%程度のマイナス成長は覚悟しなければならないだろう。

少なくとも短期的な影響でみれば、新型コロナウイルスが経済に与える悪影響は、もはやリーマン・ショック時に匹敵すると言える。

金融危機の回避が最も重要な経済対策に

ところで、リーマン・ショック後の世界経済を大きく特徴づけたのは、短期的な経済の落ち込み以上に、労働生産性上昇率や潜在成長率の低下など経済の潜在力の低下という構造変化が引き起こされてしまった点だ。それをもたらしたのは、金融危機である。金融市場や銀行の金融仲介機能が低下したことで、お金が円滑に回らなくなったためだ。

今回については、金融危機さえ回避できれば、短期的な経済の落ち込みはリーマン・ショック並みであっても、その後の経済の姿はリーマン・ショック後とは異なり、比較的早期に正常化しやすい。この点から、金融危機の回避に向けて中央銀行が果たすべき役割は大きい。金融危機の回避こそが、最も重要な経済対策とも言える。

日本の場合には最も重要なのは、銀行によるドルの調達に支障を生じさせないことだ。仮に大きな支障が生じれば、銀行が外貨建て債務でデフォルト(返済不能)を起こすばかりでなく、貿易が大きく縮小することで、実体経済に深刻な影響が及ぶことになる。

それは、日本の輸入の約7割がドル建ての契約・決済であるためだ。その結果、輸入業者は銀行を通じてドルを調達できないと、原材料などの輸入が滞り、国内での生産活動に大きな支障が生じてしまう。これこそが、リーマン・ショックの際に、震源地ではない日本の経済活動の落ち込みが、主要国の中で最も大きくなった理由である。ドルの安定確保は、日本にとってはまさに生命線なのだ。

この観点から、日本銀行は、銀行や企業のドル確保のために、最大限の施策を講じるべきだ。

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