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FRBの危機対応はいよいよ本丸の社債市場に及ぶ

2020/03/24

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FRBは資産の買入れを無制限に

米連邦準備制度理事会(FRB)は、ほぼ毎日のように、金融市場や金融機関の安定確保のための危機対応策を打ち出している。3月18日には、信用力の高い債券を中心に運用される投資信託であるMMF(マネー・マーケット・ファンド)の運用を支える枠組を発表した。20日にはMMFへの資金供給の担保に、新たに州政府などが発行する地方債も加えることを決めた。これは、間接的な地方債市場への肩入れである。

さらにFRBは22日には声明文を発表し、米銀に対して、新型コロナウイルスの感染拡大で悪影響を受けた借り手の資金繰りを支援するよう要請した。具体的には、必要に応じて借り手の返済を猶予したり、手数料を免除したりするように米銀に促す内容である。

さらに23日には、FRBは臨時の会合を開き、7,000億ドルとしていた資産の買入れ額について、当面は無制限とする措置を決めた。金融機関に対して大量の資金供給を実施することで、金融市場と金融システムの安定確保に努める狙いがある。金融機関の間で、国債やMBS(住宅ローン担保証券)を現金化する動きが広がる中、利回りの上昇が経済活動に悪影響を及ぼすことを回避する狙いもある。

また同日にFRBは、消費者ローンや中小企業向け融資を担保とするABS(資産担保証券)を買入れる緊急措置も決めた。個人や中小企業向けの貸出を助ける狙いがある。

これに加えて同日には、FRBがレポ市場で翌日物の資金をゼロ金利で金融機関に貸し出す措置も導入された。

危機対応はいよいよ社債市場に

さらに、FRBの危機対応は、いよいよ本丸とも言える社債市場に及ぼうとしている。米国市場では、企業の短期資金調達手段であるCP(コマーシャル・ペーパー)市場と並んで、社債市場が金融市場の混乱の震源地となりやすいと警戒されてきた。超低金利環境が長く続くもとで、利回りを求める投資家は、信用リスクを無視して社債を買い進めてきた面があるためだ。

米議会は、FRBによる一段の緊急措置の実施を可能にする法案をまもなく可決すると見られる。その中には、FRBに社債の購入拡大を認める内容が含まれている模様だ。

FRBは、既にCPの買入れをする仕組みを導入しているが、より期間が長い社債の購入については、議会の承認が必要とされる。ムニューシン財務長官は、議会で承認されるFRBの緊急措置によって、最大4兆ドルの流動性供給が可能になる、と説明している。また、FRBが新たに買入れる債券には、地方債も含まれる可能性がある。

機能不全に陥るハイイールド債市場

米国の投機的格付けの社債市場であるハイイールド債は、既に機能不全に陥っている。先週(3月16日~20日)は、それがより際立った1週間となった。ブルームバーグ社が発表しているハイイールド債ベンチマーク指数の利回りと財務省証券利回りとの利回り格差は、前週から286bp(ベーシスポイント、1bpは0.01%)拡大した。また、投資リターンは10.2%の大幅下落となったのである。

ハイイールド債の平均利回り格差は、先週末に1,000bpを超えた。つまり、財務省証券利回りに対して、10%以上のプレミアム(上乗せ金利)が付いたのである。これは実に、2009年6月1日以来の水準だ。そして、わずか過去2週間のうちに、この利回り格差は2倍近くまで一気に上昇している。

また、米国では先週のハイイールド債の新規発行はゼロだった。前週には1.4億ドルの発行が見られていた。3月に入ってからの発行額は37.6億ドルと、2月の同時期の310億ドルと比べて8分の1程度にまで減少している。

原油価格の下落が加速させるデフォルト率

このように、ハイイールド債の利回りが急騰し、その発行が大幅に減少している背景にあるのは、新型コロナウイルスの影響による企業の経営環境の悪化である。今後は、破たんに追い込まれる企業が、大幅に増加することになるだろう。S&P社は、過去1年間のデフォルト(債務不履行)率が、2019年12月時点の3.1%から、2020年12月までに10%まで上昇すると予想している。

ハイイールド債市場で最も利回り格差の拡大が目立っているのは、エネルギー関連である。原油価格の下落が、シェール関連など、米国のエネルギー企業の経営を直撃しているのだ。既に、テキサス州では複数の中小原油・ガス会社が破綻している。エネルギー関連に対する融資額が大きい米銀では、貸出の信用コストが上昇し、これが貸出余力を低下させることで、エネルギー関連企業の資金繰りをさらに悪化させるという悪循環も生じている。

新型コロナウイルスは景気の悪化、原油価格の下落を伴いつつ、米国金融市場の最も弱い点である社債市場を、いよいよ直撃し始めたのである。

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