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首都東京ロックダウン(都市封鎖)が経済に与える打撃

2020/03/26

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現実味が出てきた首都東京のロックダウン

東京都では3月25日に、新型コロナウイルスの感染者数が新たに41人確認された。1日単位で確認された感染者数としては、都道府県別で過去最高である。この事態を受けて小池東京都知事は、「オーバーシュート(爆発的な感染拡大)の懸念がさらに高まっており、今まさに重大な局面」、との認識を示した。さらに、都民に不要不急の外出を自粛するように求めたのである。具体的には、平日はできるだけ自宅で仕事を行ない(リモートワーク)、夜間の外出を控える、週末も外出を控える、といった要請だ。この外出自粛要請の対象期間は、4月12日までの2週間半程度となる。

他方で、「ロックダウン(都市封鎖)」の実施については、「今すぐということではない」としつつも、その可能性は否定しなかった。その判断基準については、「有識者などの助言をもらいながら、ある程度は政治的判断も必要になる」と説明している。政府の緊急事態宣言と同時に、東京のロックダウンが宣言される可能性もあるだろう。

世界に広がるロックダウン

このように、今後も感染者数の大幅拡大が続けば、首都東京がロックダウンされる可能性が現実を帯びてきた。中国の武漢市を起点に、世界各国では外出など人々の移動を強く制限するロックダウンが、既に急速に拡大している。WHO(世界保健機関)も、ロックダウンの感染拡大の抑制効果を評価し、各国にその導入を検討するように呼び掛けている。

例えばフランスでは、全国で厳しい外出制限が実施されている。外出が許可されるのは、リモートワークが可能でない人の出退勤、生活必需品の購入、通院、保育園への子供の送り迎え、高齢者支援、一人での運動、の6つのケースに限られている。外出には、その理由を示した証明書を携帯することが求められ、違反者には135ユーロ(約1万6,000円)の罰金が科される。外出制限を徹底させるため、警察官約10万人が取り締まりに当たっている。

日本では、このフランスやイタリア等のように、私権を制限して、外出を強制的に規制することはできない。しかし東京都知事が政府の承認の下でロックダウンを宣言すれば、都民の外出や他の都道府県からの東京都への流入がかなり制限されることになるだろう。これは、主に個人消費活動に甚大な悪影響をもたらす。

ロックダウンは個人消費に大きな打撃

そこで以下では、首都東京が仮にロックダウンされる場合に生じる、日本経済への影響について概算を試みた。

まず、東京都の経済規模を確認しておきたい。2016年度の東京都の県内総生産は104.5兆円だ。全国のGDPに占める比率は19.0%と、2割近くにも及んでいる。この規模は、世界の中でGDPの規模が15位のメキシコと、16位のインドネシアの間となる。また、県民所得では、東京都の比率は全国の17.8%を占める。

ロックダウンで人の移動が厳しく制限される場合、GDPの需要項目の中で最も顕著な影響が出るのが、個人消費だ。リモートワークや東京都以外の拠点を用いることで、設備投資など企業の活動は相対的には維持されやすい。

ただし、外出が厳しく制限されたとしても、全ての消費活動が失われることは当然のことながらあり得ない。生きていくための飲食費などは変わらず支出される。また、家にとどまっていても、光熱費は使われる。

家計調査統計(2019年、総世帯)の消費項目の中から、ロックダウン下でも変わらず消費されると見られる項目を以下に抽出した。カッコ内は、消費全体に占めるそれぞれの構成比である。在宅でインターネットの利用はむしろ増えると見られるが、それは通信費に含まれる。

食料・飲料(25.4%)
家賃(4.3%)
光熱・水道(7.4%)
医療サービス(2.6%)
通信(4.5%)

東京ロックダウン1か月間で2.5兆円、GDPの0.4%が失われる

これらの項目の構成比の合計は44.2%である。やや厳しい条件かもしれないが、残り55.8%がロックダウン下では一時的に支出されない消費とここでは考える。

仮に首都東京のロックダウンが1か月実施される場合、東京都の消費が55.5%減少するとすれば、それは日本全体の個人消費を2.49兆円減少させる。3ヵ月続く場合にはその3倍の7.48兆円となる。これは日本の1年間のGDP(2019年)をそれぞれ0.44%、1.32%押し下げる。ちなみに、1か月間のロックダウンであっても、それによって失われる需要は、東京五輪延期が2020年GDPに与える影響を上回る計算だ。

実際の影響は、外出制限がどの程度の実質的な強制力を発揮するかによっても変わってくる。また、東京都での外出自粛、消費自粛は既に一定程度は行われていることから、ロックダウンが実施された場合に、上記で計算された効果のすべてが、新たに顕在化する訳ではない点に留意したい。

いずれにしても、首都東京がロックダウンとなった場合、東京あるいは日本全体の経済にかなり深刻な打撃となることは疑いがない。そうした事態がなんとか回避されることを願いたい。

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