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日本も大企業救済の局面に入っていくか

2020/04/02

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政府は航空業界の資金繰り支援に乗り出す

安倍首相は、4月1日の参院決算委員会で、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けている航空業界は日本経済の基盤インフラだとして、「しっかり支援していきたい」との考えを述べた。

また、麻生財務相は、航空業界の支援では政府系金融機関の政策投資銀行の危機対応業務を活用する、との考えを示している。日本航空(JAL)と全日空(ANA)は、4月に国際線の追加減便を行い、平常時と比べて約85%の減便とすることを明らかにした。

現在、経営状態が悪化して資金繰り問題に直面している航空業界は、手元資金を確保しておくため、大手銀行からの借り入れを検討していると報じられている。民間銀行から十分な資金を借り入れることがこのままでは難しくなってしまう可能性が意識されたことで、政府は政策投資銀行の危機対応業務(日本政策金融公庫からのリスク補完等を受け、危機の被害に対処するために必要な資金を供給する業務)の活用を検討し始めたのではないか。

しかし、航空業界は当面の資金繰り対策はできても、利用客が大幅に減る下で赤字状態が続けば、いずれ深刻な資本不足に陥ることになる。それを回避するには、政府が財政資金を用いて資本を増強する、公的支援が必要になってくる可能性がある。

公的支援策は中小・零細から大企業へ広がるか

そうした公的支援の対象となり得るのは、航空業界には限らない可能性がある。宿泊業、飲食関連、小売業の一部などでは、大企業の業況も急速に悪化している。さらに、欧米でロックダウン(都市封鎖)が広がる中、現地での工場閉鎖や現地向け輸出の急激な悪化から、日本の輸出型大企業、グローバル企業も、この公的支援を受ける可能性がいずれ出てこないとも限らない。

政府は、緊急経済対策の第1弾、第2弾では、新型コロナウイルス問題で大きな打撃を受けた中小・零細企業向けに、政府系金融機関による低利あるいは実質無利子融資を打ち出した。さらに、向こう1週間程度で政府がまとめる大規模経済対策の中には、中小企業向けに財政資金を投入する給付金制度が盛り込まれる見込みだ。

しかし、中小・零細企業の救済の場合には、雇用を守る、あるいは弱者救済という大義名分のもとで、国民の理解は比較的得やすい。しかし、国民の税金を用いて大企業を救済する場合には、国民の理解がより得にくい面もあり、政策としてはより難度が高まるだろう。

政府の新型コロナウイルス対策は、そうした新たな局面に入りつつあるのではないか。

米国では大企業支援の是非で議会は紛糾

米国議会は3月27日に、2.14兆ドルの大型経済対策を可決したが、この中には、中小企業向けの財政支出に加えて、大企業向けの助成金と融資が含まれている。米連邦準備制度理事会(FRB)は、米財務省の出資を受けた投資目的事業体を通じて、航空業界やボーイング等その他大企業向けの融資を行う。また、経済対策には、320億ドルの航空業界向けの助成金も組み込まれた。ただし米政府は、航空業界向けの助成金供与は、政府による株式買い取りとの交換条件となることを示唆している。政府はただで財政資金を渡すのではなく、株式の保有を通じて経営に影響力を与えることになるのではないか。

大型経済対策を巡って、共和・民主両党が最後まで揉めたのが、この大企業支援の部分だ。共和党が民主党の主張を受け入れて、支援が役員報酬の増額や自社株買いなどに使われないように独立機関がその使途を監視する仕組みを設けることで、両者はなんとか合意したのである。

2008年のリーマン・ショック時には、救済の対象は大手銀行だった。経済危機を引き起こした最大の責任者である金融機関を国民のお金を使って救済することに反対する意見が議会内で強く、経済対策の成立までには時間を要した。

今回は、新型コロナウイルスの感染抑制のために政府が決めた出入国規制措置や、外出自粛要請などによって、いわば何の落ち度もない企業の経営が脅かされている。そうした企業を救済するという点において、リーマン・ショック時よりは国民の反発は小さく、議会はより迅速に経済対策を成立させることができた。

ところで2009年には、米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)が経営破綻し、公的資金によって救済された。オバマ政権が500億ドルで過半数の株を握り、同社政府の管理下に置いた。

欧州でも政府が大企業の株式取得へ

政府による大企業救済の動きは、欧州でも進んでいる。ドイツ政府は、「経済安定化ファンド(WSF)」という5,000億ユーロの救済基金を新たに創設する。これは新型コロナで打撃を受けた企業を救うのが目的だ。2008年のリーマン・ショック後にドイツの銀行を救い、今でもコメルツ銀行の株式を保有する基金に倣って設計されたものだ。新しい基金は、新型コロナの影響を被った企業に対する1,000億ユーロの資本増強と引き換えに株式を取得する。経営難に陥った企業の債務も最大4,000億ユーロ保証する。

また、フランスのルメール経済・財務相は3月24日に、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、資本注入や完全国有化などの公的支援が必要になると思われる企業のリストを作成した、と述べた(ロイター通信社による)。対象企業には、政府支援が利用可能であることを既に知らせているという。

さらにルメール経済・財務相は、「国有化はもちろん最終手段だが、選択肢から排除はしていない」としたうえで、「すでに政府が何10億ユーロもつぎ込んだ大企業を破綻させはしない」と明言している。

大企業支援の基準をどのように設けるか

このように、欧米では新型コロナウイルスの問題を受けて、大企業支援の動きが広まっている。日本はやや遅れているが、今後の企業支援の対応は、中小・零細企業から大企業へとその比重が移っていく可能性があるだろう。

支援の対象となる大企業の経営不振が、経営の失敗によるものではなく、新型コロナウイルスの拡大という一種の災害によるものであり、また、それへの対策として政府が講じた渡航制限や各種自粛の影響によるところが大きい点を踏まえると、公的資金、つまり国民の税金を使った大企業の公的支援策についても、国民の理解は一定程度得られるだろう。

しかし、10年前に経営破綻した日本航空(JAL)への公的支援については、業界の競争条件を大きく歪めてしまった、などの批判があったことも、多くの国民はまだ記憶しているだろう。

政府は、単に「Too Big To Fail(大きすぎて潰せない)という説明ではなく、対象となる大手企業に公的支援を実施することが、支援しない場合と比べて経済そして国民生活にとって長い目で見てプラスであることをしっかりと論証することが求められる。また、支援の基準を、中小・零細企業の場合と比べて格段に詳細に国民に示すことが重要なのではないか。

冒頭でも述べたが、今後、政府による企業支援の対応が、まだ十分ではないとしても相応に手を打ちつつある中小・零細企業から、今後は大企業へとその比重を移していく中、政策としての難度がより高まることは間違いない。

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